1、トランスジェネシスによるエンハンサー活性のスクリーニング 発生や遺伝病に関与する遺伝子の中でも、特に組織再生に関与するものとして、Foxファミリーやエピジェネティック制御遺伝子群(Ezh2やUtx等)に注目して、シス調節領域を同定した。Ezh2とUtxの遺伝子産物はそれぞれクロマチンの凝縮と脱凝縮に働くが、胚発生においては、Ezh2とUtxのエンハンサーは共に脳や脊髄などで活性を示し、ツメガエル幼生の尾部を切断した後には、再生中の脊髄で再び活性化することを発見した。 またPax8とPax2は、脊椎動物の祖先種で起きたゲノム倍化により、共通の祖先遺伝子から形成されたパラログペアであるが、それらの発現様式は現生の脊椎動物において大きく異なる。一方、原索動物のナメクジウオはゲノム倍化を経験しておらず、Pax8とPax2に対する祖先型Pax遺伝子を1つもつ。これらの遺伝子のシス調節領域の比較機能解析から、Pax8とPax2の発現様式の違いはエンハンサーの変化によるのではなく、特定の組織でエンハンサーの働きを抑制するサイレンサーをゲノム倍化の後にPax8が獲得したためであることがわかった。この発見は、遺伝子の活性化に働くエンハンサーの変化にのみ注目してきた従来の分子進化学の考え方を覆すものである。 2、エンハンサーデータベースとゲノム調節ネットワークモデルの構築 エンハンサー活性のスクリーニング結果は、所属機関のホームページで公開し、その一部は学術論文として発表した。ゲノム調節ネットワークについては、特にPax2、Pax5、Pax8のパラログペアに注目して、エンハンサーやサイレンサーに転写因子の結合モチーフをマッピングし、さらに進化におけるそれら結合モチーフの獲得過程についてモデルを立てた。
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