(PRDX5依存的Bag1のレドックス制御によるeIF2alfaのリン酸化制御機構) 小胞体ストレスやウイルス感染を防御するために、哺乳動物細胞は一過的にグローバルなタンパク質合成を阻害する。これは翻訳に必須な翻訳開始因子eIF2alfaのリン酸化を介して起こることが知られている。このeIF2alfaのリン酸化は酸化ストレスによっても誘導されることが知られているがそのメカニズムは明らかにされていない。本研究からヒトペルオキシレドキシンV(PRDX5)によるBag1のレドックス制御がeIF2alfaのリン酸化の制御に寄与していることが明らかにされた。これまでPARK、PKRやHRI等のeIF2alfaキナーゼが酸化ストレスに活性化に寄与することが報告されているが、我々が得た知見はこれを覆す可能性がある。すなわちPRDX5依存的なBag1のレドックス制御がeIF2alfa脱リン酸化酵素を制御するというものである。 (Pyk1のレドックス制御とジスルフィド結合に寄与するシステイン残基の同定) ピルビン酸キナーゼPyk1は糖代謝の過程でホスホエノールピルビン酸(PEP)よりビルビン酸合成をおこなう唯一の酵素である。グルコースが枯渇した条件ではエタノールや酢酸を材料として糖新生を行い核酸等の代謝産物を得る必要があるが、その際にはPyk1の活性が抑制されなければならない。すなわちPyk1活性が残存すると合成されたPEPが再びピルビン酸に変換され糖新生効率が低下することが考えられる。本研究によりPyk1が酵母ペルオキシレドキシンTsa1依存的にレドックス抑制制御されることが示唆された。これは、環境変化に適応するため細胞は過酸化水素をシグナル分子としてエネルギー代謝をレドックス制御するという新たな機構の可能性を初めて示すものである。
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