1、ヒトペルオキシレドキシンVによる酸化ストレス依存的eIF2alfaのリン酸化を制御 真核生物は、ストレスに適応するための選択的な因子の蛋白質合成の誘導機構を備えている。グローバルな蛋白質合成抑制と抗ストレス因子の蛋白質合成のみを特異的に誘導する翻訳のリプログラミング機構である。この制御に中心的に機能しているのが翻訳開始因子eIF2alfaのリン酸化を介した機構である。eIF2alfaのリン酸化は、小胞体ストレスではPERKが、ウイルス感染ではPKRといったeIF2alfaキナーゼの活性化に起因する。しかし、これらのキナーゼは酸化ストレスによって活性化されない。本研究により、ヒトペルオキシレドキシンV(PRDX5)が過酸化水素存在下でBag1を酸化し、その結果、eIF2alfaの脱リン酸化酵素GADD34-PP1の活性が抑制されることを見出した。すなわち、構成的なeIF2alfaキナーゼ活性によるリン酸化eIF2alfaのレベルは、通常GADD34-PP1活性により抑えられているが、酸化型Bag1とGADD34-PP1が結合することでこの脱リン酸化が抑制される。新たな翻訳リプログラミング機構が酸化ストレス応答においては役割を果たす。 2.酵母ピルビン酸キナーゼのレドックス制御はグルコース枯渇時の酸化ストレス応答に必須である ピルビン酸キナーゼPyk1は糖代謝の過程でホスホエノールピルビン酸(PEP)よりビルビン酸合成をおこなう唯一の経路を担う酵素である。グルコースが枯渇した条件では核酸等の代謝産物を得るために糖新生を行うが、そのためには糖新生過程で合成されたPEPを消費するPyk1の活性は抑制される必要があるがその機構は不明であった。本研究によりPyk1が酵母ペルオキシレドキシンTsa1に依存的にレドックス抑制制御されることが明らかになった。また、この制御がグルコース枯渇下の酸化ストレス応答に必須であることを明らかにした。これらの知見は、グルコース枯渇下の定常期の酵母細胞の酸化ストレス応答には糖新生によるNADPHの誘導合成が必要であり、Pyk1のレドックス抑制制御は糖新生の誘導機構である可能性を示している。
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