研究課題/領域番号 |
21220005
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研究機関 | 生理学研究所 |
研究代表者 |
定藤 規弘 生理学研究所, 大脳皮質機能研究系, 教授 (00273003)
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研究分担者 |
岡沢 秀彦 福井大学, 高エネルギー医学研究センター, 教授 (50360813)
飯高 哲也 名古屋大学, 医学系研究科, 准教授 (70324366)
板倉 昭二 京都大学, 文学研究科, 教授 (50211735)
小枝 達也 鳥取大学, 地域学部, 教授 (70225390)
小坂 浩隆 福井大学, 子どものこころ発達研究センター, 特命准教授 (70401966)
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キーワード | 機能的MRI / 向社会行動 / 分化間差異 / 共感 / 心の理論 / 広汎性発達障害 / コホート調査 / 報酬系 |
研究概要 |
(1)相互模倣時の「自己の動作と他者の動作の同一性の認識」に関わる神経活動が、人間の身体部分に特異的に反応する視覚領野であるExtrastriatebodyarea(EBA)で見られ、その強度が自閉症傾向と逆相関し、自閉症スペクトラム群(ASD)では減弱していることが判明した。 (2)2台のMRIを用いて、2個人間の相互作用中の神経活動を同時に計測するシステムを開発して、共同注意とアイコンタクト時の神経活動を計測したところ、アイコンタクト中の"脳活動共鳴"が右下前頭回において見られ、意図の共有に関与していることを示した。ASDと正常者のペアでは、右下前頭回での個体間"共鳴"が消失していた。この領域と右上側頭溝の機能的結合は、ASDの相手をした正常者でのみ低下しており、その強度は共同注意課題の成績と正相関していたことから、共同注意の成績は、視線処理のみならず、アイコンタクトを介した間主観性にも依存することを示唆する。 (3)自己顔評価に関連する右前頭-頭頂領域のうち、「自己への関心」と「自己評価」は右側前頭領域において独立な神経基盤をもち、自己顔認知に伴う自己意識情動に関連する領域として島が重要であることが判明した。 (4)嘘判断は道徳判断(規範性)の神経基盤と、意図性の神経基盤により表象されており、左側頭頭頂結合はその両者に関係していることが示された。 (5)ASDで障害のある皮肉理解の神経基盤は、心の理論の神経基盤の一部が関与すること、比喩の神経基盤とは異なることが明らかとなった。 (6)乳児における行為の知覚と自身の運動発達の程度には強い関係があることが判明した。これは他者の行為を理解するためには、観察した他者の行為を自己の運動表象に写像する必要があることを示す。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
研究分担者間の相乗作用が強く働き、「向社会能力の発達」を基軸にした異分野架橋型共同研究が生産的に進んでいるため。例えば、発達心理学から相互模倣についての仮説が提出され(板倉)それを機能的fMRIで証明し(定藤)、さらに疾患群に適用することによってASDの病態生理理解へ一歩進めた(小坂)。
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今後の研究の推進方策 |
社会報酬が心の理論を経由して報酬として働くという所見は、本研究で初めて明らかになったものであり、独自性の高い知見である。本研究では、向社会行動を報酬の観点から解析してきた。このアプローチは共感を基盤とする向社会行動理解と相補的な関係を持つと考えられる。 これまで、共感を元にした援助の主要な目的は、犠牲者の苦痛を和らげることから、共感的苦痛の回避と考えられてきた。一方で援助に伴うポジティブ感情(warm-glow)も向社会行動の報酬となりうるとの考えがある(empathic joy hypothesis)。この感情が共感に起因するものであることを、機能的MRIを用いた実験により、明らかにしていく。
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