研究課題
シナプスが脳においてどのように形成され、維持され、再編成されるのか、その分子機構を理解することはヒトのさまざまな脳機能解明の基盤となる。新しい光学的測定技術であるSTORM(stochastic optical reconstruction microscopy)法/PALM(photoactivated localization microscopy)法を適用することにより、大脳皮質や海馬での神経細胞間のシナプス形成・維持機構を明らかにすることを目的として研究を実施した。本年度は(1)前年度に開発したSTORM/PALM法に利用可能な蛍光プローブであるPSD-95-EOS、Shank2-EOSについて、一個のPSD・シナプスに存在する分子の局在を高解像度で検出し、二つの足場蛋白質がPSD内部で異なった分布を示すことを明らかにした。(2)開発した顕微鏡システムのZ軸方向のドリフトを制御するための新しい光学系・制御系の開発を行った。(3)脳内での分子分布を検出するための方法として、脳を固定し、樹脂包埋、超薄切片作成後に光学顕微鏡で観察するarray tomgraphy法を導入し、この手法とSTORM/PALM法を融合させるための条件を検討した。(4)In vivo imagingの手法を用いて、生後発達早期の大脳皮質におけるシナプス動態を定量し、特に生後3週以内のシナプス動態が非常に活発であり、それ以降と全く異なることを明らかにした。このような時期特異的なシナプス動態について、in vivo imagingとarray tomography法を結びつけて解析を行い、動態制御に係る分子を同定することが今後の課題である。以上の実験および観察系の改良により、1分子の高精度の位置決めによるシナプス内部構造の解析が可能となり、この技術を脳内のシナプス構造に応用するための技術開発の道筋が拓けた。
2: おおむね順調に進展している
STORM/PALM法のための顕微鏡システムは本年度までで完成し、実際のデータ取得が可能になった。またこの方法論と組み合わせるためのarray tomography法、in vivo imaging法についても基礎となる実験技術は確立しており、研究の進展は良好である。
今後はSTORM/PALM法array tomography法、in vivo imagingという三つの先端的技術を融合して個体レベルでのシナプス動態を高い空間解像度で解析するための方法論を具体化する。
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