研究課題/領域番号 |
21220011
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研究機関 | 獨協医科大学 |
研究代表者 |
安藤 譲二 獨協医科大学, 医学部, 特任教授 (20159528)
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研究分担者 |
山本 希美子 東京大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (00323618)
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研究期間 (年度) |
2009-05-11 – 2014-03-31
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キーワード | 血管内皮細胞 / Shear stress / メカニカルストレス / メカノセンシング / ATP / カルシウムチャネル |
研究概要 |
我々は血管細胞が血流に起因するshear stressを感知して応答する分子機構を研究してきたが、その中でshear stressのメカノトランスダクションの特徴として細胞膜に存在する多様な分子・ミクロドメイン(イオンチャネル、増殖因子受容体、接着分子、カベオラなど)を介し、その下流で多岐に渡る情報伝達経路を活性化することを見出した。この特徴を説明できる機構として細胞形質膜の物理的性質がshear stressで変化し、それが様々な膜分子の活性化に繋がる可能性が考えられた。そこで、培養血管内皮細胞に流れ負荷装置で定量的なshear stressを作用させたときの細胞膜リン脂質-水系の構造(lipid order)の変化と膜流動性の変化を解析した。その結果、shear stressを作用させると即座に細胞膜のlipid orderが減少し、膜の流動性が増加することが判明した。この変化はコレステロールに富む細胞膜の小さなフラスコ状陥凹構造物であるカベオラが集積する部位で顕著であった。これらの所見はshear stressがカベオラの集積する細胞膜をliquid-ordered stateからliquid-disordered stateに変えること、それに伴って細胞膜の流動性が増加することを示している。これはshear stressが細胞膜物性であるlipid orderに影響を及ぼすことを初めて明らかにした研究成果である。また、細胞膜流動性の変化は様々な膜分子を活性化することが知られており、shear stressによる膜流動性の変化が内皮細胞のメカノトランスダクションに重要な役割を果たすことが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究では血管内皮細胞のshear stressの感知機構を探るためshear stress作用下の細胞膜物性の変化を環境感受性プローブのLaurdanと2光子顕微鏡を用いて解析した。その結果、shear stressが内皮細胞膜の脂質2重層のlipid orderを低下させる現象を世界で最初に画像化することができた。また、同一細胞で膜のlipid orderと流動性を測定し対比することに成功したが、こうした実験は他に類をみない。この実験でとくに細胞膜の小さなフラスコ状陥凹構造物であるカベオラが集積する部位がshear stressに敏感に反応してその物理的性質(lipid orderと流動性)を変えることが明らかになった。このことはカベオラがshear stressのメカノトランスダクションに関与する機構を理解する上で有用な情報を提供すると思われる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題では血管内皮細胞がshear stress(SS)を感知する分子機構と、それが生体の循環系の機能調節に果たす役割を解明するため、以下の項目について研究を遂行してきた。これを継続するとともに一部に新しい変更を加えて研究を推進する。 1)SS作用下の細胞膜分子の挙動:SSが内皮細胞膜の脂質2重層のlipid orderや流動性に及ぼす影響について解析を行う。生細胞で観察されたSSによる細胞膜の物性の変化が人工脂質膜で生じるかについて生細胞膜を構成する脂質で作製した巨大単一膜ベシクルにSSを作用させる実験を行う他、当初は含まれていなかった細胞膜コレステロールやスフィンゴ脂質の分布や動態の変化や、カベオラ構成蛋白であるカベオリンやカビンの挙動について蛍光脂質プローブやGFP標識蛋白を使った最新のイメージング法を導入した解析を行う。 2)SSのメカノセンシング機構:SSのカルシウム・シグナリングに重要な役割を果たす細胞からのATP放出現象を独自に開発したイメージングで可視化に成功し、カベオラが集積する部位からATP放出が起こり、そこからカルシウム波が始まって細胞全体に伝搬するという画期的な画像を得た。更にSSによりATP放出が生じる分子機構を解明するため、カベオラに集積するATP合成酵素やATP透過性チャネルの関与について検討する。 3)SSの情報伝達と循環調節:マウス胚性幹細胞やヒト末梢血由来内皮前駆細胞の血管細胞への分化にSSが重要な役割を果たし、その分化誘導に関わる情報伝達経路と転写因子を介した遺伝子発現調節機構を明らかにしてきた。SSで活性化する情報伝達経路と遺伝子応答のカスケードを明らかにすると共に、物理刺激に応答する新規遺伝子を探索するため内皮細胞から樹立された完全長cDNAライブラリーと機能イメージングセルソータを用いた単一細胞レベルでの発現クローニングを実施する。
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