研究課題/領域番号 |
21221001
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研究機関 | 首都大学東京 |
研究代表者 |
梶井 克純 首都大学東京, 都市環境科学研究科, 教授 (40211156)
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研究分担者 |
今村 隆史 独立行政法人国立環境研究所, 領域長 (60184826)
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キーワード | 揮発性有機化合物(VOC) / 窒素酸化物(NOx) / 液化天然ガス(CNG) / イソプレン / モノテルペン / セスキテルペン / OH反応性 / HO_2反応性 |
研究概要 |
バングラディッシュのダッカにおいて5月15目から2週間大気の集中観測を行った。車の登録台数から考えても大変清浄な大気であった。揮発性有機化合物(VOC)や窒素酸化物(NOx)濃度に加えてオキシダントも計測した。ガソリンの代わりに液化天然ガス(CNG)が燃料の主流であることからオキシダント濃度が低く抑えられていることが明らかとなった。CNGがクリーンエネルギーであることを実証したことになる。高速GCシステムの構築を行い約10分間で植物起源VOCであるC5であるイソプレン、C10であるモノテルペン(7種類)、C15であるセスキテルペン(6種類)を分離できるシステムが実現した。高速GCシステム、OH反応性測定装置および陽子移動型質量分析を用いて植物由来のガスの測定を行い、20-50%程度の未知なるOH反応性が恒常的に植物から放出されていることが明らかとなった。現在実用しているOH反応性測定装置の大気試料入口に高濃度COを導入することにより人工的に反応管内で生成したOHラジカルをCOにより速やかにHO_2に変換し、反応管内で実大気と反応し減衰するHO_2ラジカルを、NOを添加することにより再びOHへと変換しHO_2の大気中での減衰速度を計測する手法を開発し、世界で初めて大気中のHO_2反応性測定が可能となった。平成23年9月6日に実大気観測を行い、HO_2の消失過程として約半分がNOの酸化、4分の1がNO_2との反応であり、残りの4分の1が未知の消失過程であった。エアロゾルへの取り込みはγを1としても0.3%となり寄与が小さかった。模擬大気チャンバーを用いてイソプレンのオゾンおよび光酸化過程のOH反応性と生成物分析実験を行っている。従来のFTIR分析、PTR-MS(陽子移型質量分析装置)およびMCMモデル計算で導出されるOH反応性と実測のOH反応性を比較したところ、低NOx濃度領域において未知なるOH反応性が全反応性の40%以上も存在することが明らかとなり、植生の活発な都市郊外地域でのオキシダント生成機構に大きく影響する可能性が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
申請時に設定していない研究項目(HO2ラジカル反応性測定)を新たに設定し、実現したことによりオキシダント生成機構に新たな知見が見出されたため。また個々の発生源調査は順調に進み、植物および自動車からの未知反応性物質の検出に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
植物から放出されるVOC計測については、方法論が確立できたことから日本の優勢種及び固有種についてのOH反応性および化学分析を行い、既存のBVOCのエミッションインヴェントリーに組み込むための基礎データを更に蓄積する。エコカーを中心として排出ガス分析を行う。ハイブリッド車に加えて、クリーンディーゼル車およびCNG車について調べる。NO_3濃度測定(BBCEAS法)では実大気レベルで観測できるシステムの構築を目指す。平成24年度の春季と秋期に東京都心で集中観測を計画している。HO_2反応性測定も組み込むことによりオキシダントの生成効率を評価することにより、反応前駆物質の評価に加えて総合的なオキシダント生成能を評価することを計画している。現在まで蓄積してきた知見を領域化学モデルに組み込み、それぞれの発生源からの未知VOCの感度解析を行い、オキシダントの制御戦略についての科学的基礎を提案する。また、HO_2の新たな反応パスについても検証を行う。
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