研究課題/領域番号 |
21221004
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研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
岩田 久人 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10271652)
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研究分担者 |
石橋 弘志 尚絅大学短期大学部, 食物栄養学科, 准教授 (90403857)
鈴木 賢一 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任講師 (90363043)
宮崎 龍彦 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80239384)
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キーワード | 細胞内受容体 / シトクロムP450 / 感受性 / 化学物質 / リスク評価 |
研究概要 |
本年度得られた成果は、以下の(1)-(4)のように要約できる。 (1)水棲哺乳類の Aryl hydrocarbon receptor(AHR) cDNA クローンを COS-7 細胞に導入した in vitro AHR レポーター遺伝子アッセイ系を構築し、種特異的なAHRによるダイオキシン類同族・異性体の用量依存的応答を測定した。得られた用量-応答曲線から2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)に対するダイオキシン類各同族・異性体の相対反応値(REP)を求め、CYP1A 誘導等価係数(IEF)を導くことに成功した。 (2)ニワトリ・ゼブラフィンチ・アノールトカゲのゲノムデータベースを利用してオーソログ遺伝子を探索し、鳥類・爬虫類から130にも及ぶCYP2遺伝子を初めて同定した。これらのCYP2遺伝子は、ヒトCYP2Cs・CYP2D6・ CYP2G2P・CYP2J2・CYP2R1・CYP2U1・CYP2W1・CYP2AB1P・CYP2AC1P とオーソログ遺伝子の関係にあると推察された。 (3)水棲哺乳類 CYP1A2 が低い代謝能を示したことに関して、in vitro 代謝実験および in silico 基質ドッキン グシミュレーションをおこない、活性中心であるヘムの近傍の特定アミノ酸が原因であることを突き止めた。 これまで調査した全ての水棲哺乳類でこの特定アミノ酸が保存されていることもわかった。 (4)ヒ素代謝の感受性規定因子探索のため、組み換え近交系マウス各系統間に亜ヒ酸を投与し、ヒ素化合物組成に差があることを発見した。続いてマウス各系統のマイクロサテライトマーカーの遺伝子型情報に基づき、ヒ素代謝能に関する QTL 解析をおこない、ヒ素代謝と有意に関連する遺伝子座が特定の染色体に存在することを突き止めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
我々の研究成果は国際レベルで高く評価されてきた。その達成度については、本研究課題を開始年から現在まで、以下の5つの学術賞を受けたことで客観的に示すことができる。 これらの受賞は当初の計画にはなかった成果である。 1) 研究代表者・岩田は、2011 年 7 月に「第 16 回生態学琵琶湖賞」を受賞した。選考の際には、化学物質のリスク評価に関して、化学物質の暴露量という環境要因に加えて、生物の感受性という遺伝的要因まで含めて科学的に解明した点が評価された。 2) 研究協力者である Thuruthippallil Leena Mol が 2009 年 5 月に 15th International Symposium on Pollutants Responses in Marine Organisms で Best Presentation Award を受賞した。この発表では、鳥類のダイオキシン受容体 アイソフォーム1・2(AHR1・AHR2)の機能を解析し、野生個体群を対象にダイオキシン類のリスクを定量的・総合的に提示した点が評価された。 3) さらに Thuruthippallil は 2012 年 3 月に51th Annual Meeting of Society of Toxicology で The Robert J. Rubin Student Travel Award も受賞した。 4) 岩田らのグループが公表した論文 (Lee et al., 2011)が毒性学分野のトップジャーナルである Toxicological Sciences 掲載号(119)の Highlighted article に選ばれた。 5) 研究分担者である阿草哲郎が 2011 年 11 月の第 17 回ヒ素シンポジウムでヒ素代謝の感受性規定因子に関する研究で奨励賞を受賞した。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策は、以下の(1)-(4)のように要約できる。 (1)これまでに構築してきたインビトロアッセイ系を利用して、より多くの化学物質のスクリーニングを試みる。これらのアッセイによって得られた化学物質と細胞内受容体との相互作用については、解離定数(KD)や 50%影響濃度(EC50)を指標にして評価する予定である。 (2)鳥類・陸棲哺乳類・水棲哺乳類に由来するシトクロムP450(CYP) 分子種の代謝力については、酵素の最大反応速度(Vmax)およびミカエリス定数(Km) を指標にして評価する。代謝物は液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を駆使して、網羅的に解析する。また化学物質とCYP蛋白質の相互作用についてシュミレーションソフトを用いたin silico解析をおこない、化学物質と相互作用するアミノ酸の候補を推定する。さらにin silico 解析で絞り込んだアミノ酸を変異させた発現蛋白質を用いて、機能解析アッセイをおこない、候補アミノ酸の寄与を検証する。 (3)ダイオキシン類に対して敏感な系統マウスと鈍感な系統マウスで AHR と相互作用する蛋白質に質的・量的な差異があるかどうかについて、pull-down 法と MALDI-TOF/TOF 質量分析法を組み合わせた実験系で検証する。 (4)TCDD 処理した組み換え近交系マウス由来の試料を用いて Cyp1a1 mRNA 発現量を測定し、各個体の用量-応答曲線から EC50 を算出する。一方、同じ個体についてサテライト マーカー多型を有する遺伝子座位の遺伝子型を決定する。その後、QTL 解析をおこなう。亜ヒ酸で処理したマウス由来の試料については、すでに QTL 解析を一度実施して感受性遺伝子座を絞り込んでいるので、その座位を対象により密なサテライトマーカー解析をおこない、遺伝子座を特定する。
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