研究課題/領域番号 |
21221004
|
研究機関 | 愛媛大学 |
研究代表者 |
岩田 久人 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 教授 (10271652)
|
研究分担者 |
鈴木 賢一 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 特任講師 (90363043)
阿草 哲郎 愛媛大学, 沿岸環境科学研究センター, 特任助教 (50403853)
宮崎 龍彦 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (80239384)
石橋 弘志 尚絅大学短期大学部, 食物栄養学科, 准教授 (90403857)
|
研究期間 (年度) |
2009-05-11 – 2014-03-31
|
キーワード | 細胞内受容 / シトクロムP450 / 感受性 / 化学物質 / リスク評価 |
研究概要 |
本年度の成果は、以下の(1)-(3)のように要約できる。 (1)魚類の aryl hydrocarbon receptor(AHR)1および2アイソフォームのcDNA クローンをそれぞれ COS-7 細胞に導入した in vitro レポーター遺伝子アッセイ系を構築し、種・アイソフォーム特異的なAHRによるダイオキシン類同族・異性体の用量依存的応答を測定した。得られた用量-応答曲線から2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD)に対する各同族・異性体の相対反応値(REP)を求め、CYP1A 誘導等価係数(IEF)を導いた。一方、ゼブラフィッシュのAHR1アイソフォームは、そのリガンド結合ドメインが他種のオーソログと大きく異なるため、特異的にダイオキシン類に反応しないことをin silico 解析により明らかにした。 (2)表面プラズモン共鳴(SPR)を利用した CAR のリガンドスクリーニング法を構築した。SPR 装置のセンサーチップに小麦胚芽抽出液を利用して大量発現させた CAR 蛋白質を固定化して被検物質と反応させ、解離定数(Kd)を 求めた。Kd 値は物質特異的であったものの、各被験物質に対して CAR の動物種特異性は認められなかった。一方、化学物質によるCAR活性化の動物種特異性は、転写共役因子であるSRC1との相互作用に依存することが明らかとなった。 (3)鳥類 CYP2Hs が存在する染色体セグメントを哺乳類の相同染色体セグメントと比較することにより、鳥類 CYP2Hs とヒト CYP2C62P・ラット CYP2C23・マウス Cyp2c44 はオーソログ遺伝子であることがわかった。さらに、フェノバルビタール誘導型のニワトリ CYP2C45 とオーソログの関係にある CYP2 遺伝子が、カワウとゼブラフィンチの両種で同定された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
以下に挙げる(1)ー(3)を総合して、本研究の進捗状況は、当初の目標を超える研究の進展があり、予定以上の成果が得られたと自己評価した。 (1)本研究課題を開始してから現在までに、研究代表者・分担者・研究協力者が8つの学術賞を受賞している。なかでも研究代表者・岩田久人は、水環境に関連する生態学およびその周辺分野における優れた国内外の研究者に贈られる「第 16 回生態学琵琶湖賞」を 2011 年 に受賞した。選考の際には、野生生物に対する化学物質のリスクを評価する際に、化学物質の暴露量という環境要因に加えて、生物の感受性という遺伝的要因まで含めて科学的に解明した点が評価された。さらに今年度は研究分担者である石橋弘志らが公表した論文が日本毒性学会のファイザー賞を受賞した。これは Journal of Toxicological Sciencesに投稿された論文の中で、過去2年間に他論文に高頻度に引用された論文に与えられる賞である。加えて今年度、岩田らのグループが学会で発表したポスター二件が優秀発表賞を受賞した。 (2)4年間で多数の論文発表(70 編)、著書出版(10 編)、国内外の学会・シンポジウムにおける招待講演(10 件)、そのほか国内外での学会等発表(156 件)をおこない、全ての項目で目標を越える成果を公表した。 (3)さらに発表の数だけでなく、質に関しても、環境科学・環境化学分野のハイランク国際学術誌「Environmental Science and Technology」(インパクトファクターIF=5.2)や「Environment International」(IF=5.3)、米国毒性学会のトップジャーナル「Toxicological Sciences」(IF=4.7)に4年間で計11編の論文が掲載されたことで、研究の進展は客観的に証明された。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策については、以下の(1)-(4)を計画している。 (1)前年度に続き、これまでに構築してきたレポーター遺伝子アッセイ法・表面プラズモン共鳴法(SPR)などのインビトロアッセイ系を利用して、より多くの化学物質のスクリーニングを進める。これらのアッセイによって得られた化学物質と細胞内受容体との相互作用については、解離定数(Kd)や 50%影響濃度(EC50)を指標にして評価する予定である。 (2)鳥類・陸棲哺乳類・水棲哺乳類の肝臓のミクロソーム画分を調製し、シトクロムP450(CYP)の化学物質代謝力について総合的に評価する。代謝物は液体クロマトグラフ-タンデム型質量分析計(LC-MS/MS)を駆使して、網羅的に解析する。今年度は特にポリ塩化ビフェニル(polychlorinated biphenyls)の水酸化代謝物について測定することを予定している。 (3)ダイオキシン類に対して敏感な近交系マウスと鈍感な近交系マウスで aryl hydrocarbon receptor(AHR)シグナル伝達系に関与する蛋白質に質的・量的な差異があるかどうかについて、二次元電気泳動法とマトリックス支援レーザー脱離イオン化法-飛行時間型タンデム質量分析計(MALDI-TOF/TOF)を組み合わせたプロテオミクス解析をおこなう。 (4)前年度に続き、2,3,7,8-tetrachlorodibenzo-p-dioxin(TCDD) 処理した組み換え近交系MXHマウス由来の試料を用いて Cyp1a1 mRNA 発現量を測定し、各個体の用量-応答曲線から EC50 を算出する。一方、同じ個体についてサテライトマーカー多型を有する遺伝子座位の遺伝子型を決定する。その後、量的形質遺伝子座(quantitative trait loci: QTL) 解析をおこなう。
|