研究課題/領域番号 |
21222001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
羽田 正 東京大学, 東洋文化研究所, 教授 (40183090)
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研究分担者 |
岩井 茂樹 京都大学, 人文科学研究所, 教授 (40167276)
松井 洋子 東京大学, 史料編さん所, 教授 (00181686)
島田 竜登 東京大学, 人文社会系研究科, 准教授 (80435106)
杉浦 未樹 東京国際大学, 経済学部, 准教授 (30438783)
松方 冬子 東京大学, 史料編さん所, 准教授 (80251479)
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キーワード | 世界史 / ユーラシア / グローバル・ヒストリー / 比較 / 異文化交流 |
研究概要 |
23年度は、以下の通り、総計13回の研究集会を開催した。このうち、主として国内の研究者が集まる研究集会は、「奴隷と現地社会」(5月29日)、モノ研究会の企画検討会(5月30日)、「政治の中の翻訳:メディア、官報」(6月11日)、「新しい世界史の構想」(8月23日)、「女性と商業」(8月24日)、「女性」(10月30日)、「支配と権力」(11月19日)、「奴隷」(1月7日)の計8回である。一方、国際研究集会は、The World/Global history Joint Workshop(10月5日)、「世界史の文脈における地域史」(10月20日、21日)、デビッド・ギャロウェイ氏(テヘラン現代美術館初代キュレーター)講演会(11月5日)、"Globalizing Violence, Emerging Modernity" (12月10日、11日)、「セカンドハンドの世界史―古着の再利用と再流通をめぐって―」(2月4日)の計5回で、「世界史の文脈における地域史」は、フランスのリヨン高等師範学校で、リヨン大学東アジア研究所との共催で実施した。以上の活動をとおし、1.新しい世界史の見方を作り出す際に重要ないくつかの論点(女性、奴隷など)について関係者間で集中的に議論を深め、2.国内外の研究者と新しい世界史の解釈と叙述の方法について議論するためのネットワークとプラットフォーム整備を進めることができた。また、研究代表者の羽田は、共同研究の中間報告としての意味を持つ『新しい世界史へ』(岩波新書)を出版し、歴史研究者のみならず、広く人文社会系や理系の研究者の間で、世界史解釈についての広汎な関心と議論を引き起こした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
当初は、ヒト、モノ、情報という3つのキーワードを設定し、これらがユーラシア各地で多角的、双方向的に交流する様を明らかにすることによって、「アジア」と「ヨーロッパ」という二項対立的な世界理解を乗り越えた世界史叙述を実現することを目標としていた。また、年に一度国際会議を開催することや、共同研究終了時に普遍的な新しい世界史のテキストを編むことも目指していた。しかし、共同研究を進める過程で、歴史認識や歴史叙述の方法についての理解が進み、ヒト、モノ、情報の交流を描く歴史叙述だけでは新しい世界史として十分ではないこと、また、普遍的な世界史を書くという目標そのものが、これまでの世界史の欠点を受け継ぐ危険性をもっていることが明らかとなった。さらに、国内と国外の研究者を分断して国際会議を特別なものとみなして開催することは、時代に合わないことも明白となった。 このため、当初は、ヒト、モノ、情報という3班に分かれ、垂直構造を持っていた研究組織をフラットなものに変え、若手研究者も含めて研究テーマをより自由・柔軟に設定できるように再編した。 このようなテーマと組織の再編により、普遍的な新しい世界史を書くという当初の計画は変更せざるをえなくなったが、この共同研究は新しい世界史の多様な側面について国内外の研究者が率直に議論を交わす共通の場へと育ちつつある。これまでの3年で、従来の世界史理解を刷新し、世界レベルで新しい世界史の解釈を生み出すための基盤はほぼ整ったと考えている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの数多くの研究会で得られた刺激や知見をもとに、今後は共同研究者が「新しい世界史」の特徴を備えた研究成果を積極的に生み出してゆく。具体的には、「新しい世界史」の基本的な要件を共有しながら、執筆者が各々得意のテーマについて執筆する「モノグラフ・シリーズ」を計画している。現在のところ、12人がこのシリーズへの参加を表明し、目下出版社の編集者も含めて準備のための会合が積み重ねられている。このシリーズの刊行は、学界での世界史をめぐる議論に大きな影響を与え、一般の人々の世界史認識を大きく変えるはずである。また、共同研究者による個別の研究成果刊行以外に、積み重ねられた研究会の議論をまとめ、日本語や英語で論文集として刊行する計画も進んでいる。例えば、リヨンで開催された本研究の若手研究協力者とフランスの若手研究者との合同研究集会の成果は、最終年度中には英文書として出版される予定である。 また現在、ウェブによって研究の目的や参加者、研究会の報告、研究関連の新情報などを発信している。とりわけ、様々な研究会の活動成果報告は、和文と英文にてホームページ上で公開している。今後は、これらの成果報告の充実をさらに図る予定である。具体的には、国内の研究報告にとどまらず、国外でいかに幅広い活動をおこなってきたかという成果発表を、一般にも分りやすい世界地図上で解説する「目で見る活動報告」を立ち上げる。このように、今後は研究成果発表に重点をおきながら活動を推進する予定である。
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