研究課題
基盤研究(S)
本研究ではダークバリオンの探査を目指す小型衛星DIOSへ向けて、TESカロリメータ検出器の開発を行うとともに、冷凍機や読み出し系も開発し、衛星の実現へ向けたさまざまな検討を行う。H23年度は、多素子のTESカロリメータの製作のために、積層配線上にTESを作り込む方法の改良に取り組んだ。積層配線というのはSi基板の厚さ方向に、絶縁層をはさんで2層の配線が走っているもので、限られた面積の中に多素子の配線を施すためには極めて有効である。しかし、配線が作る段差の上にTESカロリメータを製作したところ、超伝導転移特性に問題のあることがわかった。詳しく調べたところ、TESの二層薄膜が段差のために破損することや、酸化膜が影響することがわかった。これらをもとにTES製作の改良の方針を立てた。年度末には二層薄膜の厚さを大きくした400素子のTESカロリメータの試作まで行った。これと並行してマッシュルーム型X線吸収体の製作方法の開発も行った。多素子の信号読み出しへ向けて、ベースバンドフィードバックをもとに、周波数分割に寄る多重化読み出しの開発を進め、4-8素子が読み出し可能であることの見通しを得た。また低雑音のSQUIの開発も進めた。DIOS衛星としての検討を引き続き進め、冷凍機の電力が大きいという問題に対処するため衛星バスも合わせて検討することになった。H23年11月にはDIOSの国際協力へ向けた検討会を首都大で開催し、米国とヨーロッパからの共同研究者が参加した。
2: おおむね順調に進展している
TESカロリメータの開発及びDIOS衛星の検討において、研究は着実に進展したと言える。積層配線が作られた基板の上にTESを製作する上で、問題点があることが明らかになったが、二層薄膜にダメージを与えないような製作ができれば、これを解決できることがわかったのは一定の成果である。具体的な製作方法を確立するには何度かの試行が必要ではあるが、早急にベストの方法を見つけたいと考えている。同時読み出しの方式も着実に進展し、4素子ほどの読み出しは研究期間内に目処をつけることができる見通しになっている。DIOS衛星としての検討が進んでいることも重要な進展である。電力が厳しいものの、ASTRO-H衛星のエンジニアリングモデルの機械式冷凍機が作成され、性能や消費電力の実績値が得られつつあることは重要な進歩である。効果的な放熱方法と合わせて太陽電池パドルを増やすなどの方法も検討しており、衛星としての実現性には明確な見通しが出てきた。
TESカロリメータの製作については、最適なパラメータを探すための試作を引き続き行う。これと合わせて、産総研などとも議論し信頼性の高い製作方法についての検討を進める。TESの製作過程では超伝導転移特性を何度も測る必要があり、冷却にかかる手間と時間が開発のネックになってきた。可能であれば、無冷媒の冷凍機を導入することで冷却を自動化し、超伝導転移特性の測定にかかる手間を大幅に減らしたいと考えている。一方、ASTRO-H冷凍機の結果を取り込みながら、DIOS衛星の設計を更に詰め、電力、重量、機器配置などの基本的な設計を1年程度で行うことを目指す。このために関係メーカーと協議を行う。1-2年後に小型科学衛星へ提案する際のTESカロリメータは、米国で稼働している実績のあるデザインをベースラインとすることを考えており、このために日米のカロリメータチームで、それぞれの分担を考えつつベースライン案の中身について検討を進める。
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すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件) 学会発表 (5件) (うち招待講演 1件) 備考 (1件)
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http://www-x.phys.se.tmu.ac.jp/dios/