研究課題
本研究の目的は、電気化学的界面に発生する超強電界を用いたトランジスタ(電気2重層トランジスタEDLT)によって、多様な物質の電子状態を電界によって制御する技術を確立するとともに、化学的ドーピングでは実現できない物質の状態を電界によって形成することにより、電気化学、電子工学、物性物理学にまたがる新たな物質科学分野を構築することである。平成22年度は、電子ビーム描画装置の導入と新物質への展開が最も大きな目標であり、さらにイオン液体-固体界面の物性解明に関する基礎的な知見の集積を行った。H22年7月に、電子ビーム描画装置は無事導入された。順調に調整を行い10月にはEDLTデバイスの作製が可能になった。以下では、中心的な対象として選んだ、カルコゲナイドを中心とする層状物質のEDLTの特性について報告する。まず、ナノデバイスの作製を行う前に、バルクEDLTデバイスの作製を行いその評価を行った。最初に扱ったのはSnSe_2である。この物質は単純なバンド絶縁体で、先行研究からはn型のトランジスタ動作が期待される材料である。バルク単結晶を用いたEDLTは期待以上の特性を示し、ゲート電圧による金属化も達成された。この成果は、層状カルコゲナイドに対する初のEDLTデバイスの成功例であり、APL98,012102(2011)に出版された。次に同様なバンド絶縁体WSe_2のEDLTでは、両極性動作を確認することに成功し、特に正孔ドープ側では電界誘起の金属化にも成功した。さらに、その金属化したWSe_2の磁気抵抗は弱班局在効果特有の正の磁気抵抗効果を示すことが分かり、その解析からWSe_2における2次元電子ガスのRashba型スピン-軌道相互作用(SOI)を電界によって変調できることが明らかになった。これまで、SOIの外部電場変調は、高易動度(1000cm^2/Vs以上)を有するIII-V属半導体の量子井戸構造を用いたFETによって行われてきましたが、今回の例はEDLTでSOIの変調が可能である最初の例となった。それは、EDLの高電界という特徴が生かされた結果である。以上の層状カルコゲナイドのバルクデバイスの成功により、この物質群とEDLTとの相性が良いことが明らかになってきた。さらに伝導性の高いモット絶縁体、電荷密度波系、トポロジカル絶縁体に適用するため、グラフェン法によるナノスケール単結晶薄膜デバイスの作製に着手した。最初の対象はバンド絶縁体であるMoS_2に選んだ。剥離法によりMoS_2の厚みは約15nmとなり、バルクの伝導性への寄与は非常に小さくなり220KにおけるトランジスタのON-OFF比も3~4桁に上昇した。さらに特筆すべきことは、従来観測されたことがないAmbipolar(両極性)伝導が観測された。H22年度では、対象を層状カルコゲナイドに広げたことにより、以上のように、EDLTの強いゲート結合を利用すると従来のデバイス特性の飛躍的な改善や、従来の固体FETでは不可能であった現象を引き出すことが可能であることが明らかになってきた。
すべて 2011 2010
すべて 雑誌論文 (19件) (うち査読あり 19件) 学会発表 (53件)
Applied Physics Letters
巻: vol.98 ページ: 012102-1-012102-3
JOURNAL OF THE PHYSICAL SOCIETY OF JAPAN
巻: vol.80 ページ: 023708-1-023708-4
巻: vol.80 ページ: 023702-1-023702-3
Physical Review B
巻: vol.83 ページ: 075302-1-6
巻: vol.96 ページ: 183304-1-183304-3
Journal of the American Chemical Society
巻: vol.132 ページ: 6672-6678
巻: vol.96 ページ: 252107-1-252107-3
巻: vol.97 ページ: 043307-1-043307-3
巻: vol.82 ページ: 054504-1-054504-6
巻: vol.97 ページ: 142110-1-3
巻: vol.97 ページ: 173301-1-3
Advanced Materials
巻: vol.22 ページ: 4867-4871
巻: vol.22 ページ: 3981-3986
PHYSICA C-SUPERCONDUCTIVITY AND ITS APPLICATIONS
巻: vol.470 ページ: S682-S684
巻: vol.470 ページ: S598-S601
巻: vol.470 ページ: S723-S724
巻: vol.470 ページ: S732-S733
巻: vol.470 ページ: S658-S659
巻: vol.132 ページ: 18402-18407