研究課題/領域番号 |
21224009
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
岩佐 義宏 東京大学, 大学院・工学系研究科, 教授 (20184864)
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研究分担者 |
野島 勉 東北大学, 金属材料研究所, 准教授 (80222199)
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キーワード | 低温物性 / 超伝導材料・素子 / 表面・界面物性 / 自己組織化 / 電界効果トランジスタ |
研究概要 |
KTaO_3において化学的方法では超伝導にならない物質の超伝導化に成功、さらに、MoS_2においては従来のT_c=7Kよりも高い、T_c=10Kを実現した。これらは、化学的手法では実現できない、キャリヤ数の領域に電界効果で達したためである。 研究開始当初のEDLTの適用範囲は、有機半導体、カーボンナノチューブ、酸化物半導体(ZnO,SrTiO_3)に過ぎなかったものが、現在では、グラフェン、酸化物超伝導体・磁性体・強相関酸化物、遷移金属題カルコゲナイド、金属薄膜、トポロジカル絶縁体、など広範に広がっている。これらの多くの系に対して、従来のFETでは実現できない両極性伝導や、電界誘起金属-絶縁体転移が観測されている。 希薄磁性半導体酸化物CoドープTiO_2においては、室温強磁性が電界効果によって発現し、VO_2にいてはモット転移が電界によって完全に抑制される、電界誘起モット転移が観測され、EDLTが超伝導以外の電子相転移の制御にも極めて有効であることを実証した。これらの電界誘起電子相転移の実現は、本研究以前には考えられなかったことである。 グラフェンの単層、2層、3層薄膜について、フェルミエネルギーを従来のトランジスタで可能であった範囲をはるかに超えて変化させることに成功し、伝導度のゲート電圧依存性において異常な伝達特性や量子キャパシタンスの発現を観測することができた。 遷移金属ダイカルコゲナイドの一つWse_2において、電界によってゼーマン分裂が誘起される全く新しい現象を発見した。この成果は、EDLTにおける超強電界がスピン制御にも有効であることを示す顕著な結果である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の目的は、電気2重層トランジスタによって、多様な物質の電子状態を電界によって制御する技術を確立するとともに、化学的ドーピングでは実現できない物質の状態を電界によって形成することにより、電気化学、電子工学、物性物理学にまたがる新たな物質科学分野を構築することである。具体的には、研究開始当時、一例に過ぎなかった電界誘起超伝導の例を増やすとともに、新規な超伝導を発見すること、さらには超伝導以外の電子相転移の電界制御を実現することであった。この目的はすでに完全に達成されていると自己評価している。 まず、超伝導についてはZrNC1において、電界誘起超伝導の2例目が実現された。KTaO_3においては、化学的方法では超伝導にならない物質の超伝導化に成功、さらにMoS_2においては、従来のT_c=7耳よりも高い、T_c=10Kを実現した。 研究開始当初のEDLTの適用範囲は、有機半導体、カーボンナノチューブ、酸化物半導体(ZnO,SrTiO_3)に過ぎなかったものが、現在では、グラフェン、酸化物超伝導体・磁性体・強相関酸化物、遷移金属題カルコゲナイド、金属薄膜、トポロジカル絶縁体、など広範に広がっている。また、希薄磁性半導体酸化物CoドープTiO_2においては、室温強磁性が電界効果によって発現したり、VO_2におけるモット転移が電界によって完全に抑制される、電界誘起モット転移が観測され、EDLTが超伝導以外の電子相転移の制御にも極めて有効であることを実証した。これらの電界誘起電子相転移の実現は、本研究以前には考えられなかったことである。 EDLTにおける電子輸送現象についても見るべき発見があった。顕著な例は、グラフェンの単層、2層、3層薄膜における伝導度のゲート電圧依存性の測定に見られた。フェルミエネルギーを従来のトランジスタで可能であった範囲をはるかに超えて変化させることに成功し、異常な伝達特性や量子キャパシタンスの発現を観測することができた。これらも、従来型のFETはもとより、化学的な手法でも観測が困難な現象である。 研究当初の予定対象物質に金属は含まれていなかったが、金の薄膜に対する電界効果実験も行われ、電界印加によって金の電気抵抗が±3%変化することが明らかになった。このような典型的な金属薄膜の電界効果は、今後さらに対象物質を拡大していく上で非常に重要な橋頭保たなるものである。さらに、電界によるスピン分極制御もまったく当初予定していなかった成果である。スピン-軌道相互作用の大きな系における電界効果は、有効磁場を通してスピン分極の制御を可能とすることが知られており、そのもっとも有名なものはラシュバ分裂である。しかし、遷移金属ダイカルコゲナイドの一つWSe2において、電界によってゼーマン分裂が誘起される全く新しい現象を発見した。この成果は、EDLTにおける超強電界がスピン制御にも有効であることを示す顕著な結果である。 以上を総合すると、計画された目的については期待以上の豊富な成果が得られていると同時に、当初全く予想されていなかった新たな現象も発見され、世界的な注目度も非常に高い。従って、当初の目標を超える研究の進展があり、予定以上の成果が見こまれると自己評価した。
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今後の研究の推進方策 |
現状ですでに研究目的は達していると考えているが、EDLTを中心とした電界効果による物質科学の研究をさらに発展させるための方策は、以下の通りである。 (1)EDLTをさらに多くの物質に適用して、新規現象を探索すること。 (2)以下の2つの新たな課題をEDLTの基本的性質をさらに解明すること。 (1)応用につながる新機能を開拓すること。 第1の項目については、従来の研究方針の継続で、本研究のさらなる発展と新分野の形成にとって核となる部分である。 第2の項目では、これまで本研究で見過ごされていたより基礎的な部分、例えば、キャリヤ蓄積層の厚みの決定、常伝導・超伝導状態におけるキャリヤの2次元性、イオン液体による物性変化などである。電界効果相転移デバイスでは・協力現象効果によってキャリヤ蓄積層の厚みよりもはるかに厚い領域まで相転移の影響が及ぶ現象が見つかり始めており、これは、従来の電界効果の常識を破る可能性がある。このように項目(1)におけるEDLT用新物質探索によって新たな物理現象の芽が現れ始めている。EDLTデバイスの物性解明によって、新規な物質物理が切り開けると期待している。 第3の項目では、EDLTを基礎研究のツールとしてではなく、優れた特性を応用に生かす方策を検討する。特に、1V程度の定電圧駆動が可能なトランジスタは低消費電力エレクトロニクスに直結する可能性を秘めている。その際に目指すものは、高集積トランジスタやMRAMの代替ではなく、相転移デバイスを用いた電子窓、スイッチャブルミラー、ナノメートル厚の超薄膜を用いた有機材料以上に曲げに強いフレキシブルデバイス、イオンセンサ、太陽電池など、比較的マクロなデバイスが対象になる。 残された期間で、以上の項目を実施することによって、「電界効果の物質科学」とも呼ぶべき新規研究プロジェクトの立案につなげ、EDLTというオリジナル技術・概念をより広い科学・技術の発展に生かしたい。
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