本研究では液体の未解明現象、(1)水型液体の熱力学異常・運動学的異常、(2)単一成分の液体・液体転移現象の起源の解明とその応用、(3)ガラス転移現象の解明、(4)高分子メルトを含む液体の結晶化の素過程と機構解明、(5)液体・ガラス状物質の非線形流動・破壊現象の解明と制御、の5つの基本問題の解明を目指している。本年度、我々は、水とLiClの混合系においてガラス形成能、フラジリティ、結晶相図の間の関係を研究し、平衡相図がガラス転移の性質に大きく影響することを見出した。また、我々は、いくつかのモデルガラス形成物質において、過冷却液体中に結晶的ボンド配向秩序が出現し、過冷却度の増大と伴にその特徴的な大きさが理想ガラス転移温度に向かって臨界発散的に増大することを、数値シミュレーション・実験を用いて示し、この増大が、構造緩和時間の急激な増大の起源であるという可能性を指摘した。また、理想ガラス転移温度に向かって、静的感受率の発散も観測され、あたかもガラス転移がスカラー秩序変数に関するd次元イジング系の臨界現象のように振舞うことが確認された。また、我々は、結晶核形成の素過程について研究を行い、従来の常識に反し、上述のように過冷却液体は、ボンド秩序という時空不均一性を内包する結果、核形成は常に密度とボンド秩序がともに高い領域から選択的に起きることを見出した。また、液体・液体転移の研究を通し、液体Iと液体IIの間に固体壁への濡れ性に差が存在し、スピノーダル温度に近づくにつれ、部分ぬれから完全ぬれに転移することを発見した。
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