研究課題/領域番号 |
21225001
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
川合 真紀 東京大学, 新領域創成科学研究科, 教授 (70177640)
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研究分担者 |
高木 紀明 東京大学, 新領域創成科学研究科, 准教授 (50252416)
金 有洙 独立行政法人理化学研究所, Kim表面界面科学研究室, 研究員 (50373296)
上羽 弘 富山大学, 大学院理工学研究部(工学), 教授 (70019214)
白木 将 東北大学, 原子分子材料高等研究機構, 講師 (80342799)
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研究期間 (年度) |
2009-05-11 – 2014-03-31
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キーワード | プローブ顕微鏡 / 表面・界面 / 吸着 / エネルギー散逸 / スピン |
研究概要 |
単一分子スペクトロスコピーの高機能化に関して、以下の4項目の研究、(1)アクションスペクトルの実験と解析理論の構築、(2)STM光検出システムの構築と分子発光、(3)表面分子磁性の開拓、(4)多重アンドレーフ反射の計測による分子の伝導機構の解明、を推進した。(1)トンネル電子誘起による吸着分子の運動や反応を観察するアクションスペクトルについて、独自に構築した反応速度の解析的な式をPd(110)表面に吸着した一酸化炭素分子のホッピングについて適用し、STMによる実験結果をバイアス電圧の全域に渡って再現することに成功した。これにより、C-O伸縮振動と束縛並進モードの非調和結合の大きさを初めて評価できた。また、Cu(110)に吸着した水分子について、高低コンダクタンス状態を与える異なる吸着配置間の振動励起による遷移を模型化する理論を開発し、第一原理計算を駆使して、それぞれの状態占有の電圧依存性、電流―電圧特性および反応速度の実験の再現を行うとともに、同位体置換によって負性微分抵抗が発現する微視的機構を明らかにした。(2)STM光検出システムを構築し、GaAs基板からの発光や有機色素分子からの発光を捉えることに成功した。(3)鉄フタロシアニン分子についてSTM接合による磁性の制御を目的に実験を行い、トンネル領域では近藤効果が、接合領域では近藤効果が消失し局在スピンが復活する状態に、コンタクトの強さに応じて変化することを見いだした。(4)電極-分子系の最も基本的なモデル系であるSTM接合中のC60分子について、多重アンドレーフ反射の計測を繰り替えし行い、伝導チャンネル数と透過係数を決定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本課題の目的は、走査トンネル顕微鏡(STM)の二つの特色、サブÅの空間分解能を有することおよび高い分解能を有する優れた局所電子源であること、を最大限に生かして、走査トンネル顕微分光(STS)、特に、非弾性トンネル電子を利用した分光法のポテンシャルを最大限に引き出し、その背後にある分子科学の基礎学理を確立することである。非弾性トンネル過程を利用した単分子スペクトルスコピーの可能性を更に探索すべく、(1)振動励起とそれに伴う分子反応のメカニズムをさらに詳しく調べアクションスペクトルの一般的な解析法を確立すること (2)トンネル電子の注入による単一分子の振動励起状態が緩和する際、輻射によるエネルギー散逸過程を介して放射される光子(THzあるいは赤外領域)を検出し、IETSとの組み合わせによる新しい単一分子振動分光法を探索すること (3)非弾性トンネル分光により検出されるスピン状態を手がかりに、分子スピンと吸着場である表面との相互作用を明らかにすること (4)超伝導・磁性体界面におけるアンドレーフ反射を利用したナノスケールでの伝導評価の試み である。(1)(3)(4)の項目で、成果をあげており、概ね順調に進展していると評価している。
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今後の研究の推進方策 |
トンネル顕微鏡の高機能化を進めるうえで設定した4つの研究項目、(1)振動励起とそれに伴う分子反応のメカニズムをさらに詳しく調べアクションスペクトルの一般的な解析法を確立すること、(2)トンネル電子の注入による単一分子の振動励起状態が緩和する際、輻射によるエネルギー散逸過程を介して放射される光子(THzあるいは赤外領域)を検出し、IETSとの組み合わせによる新しい単一分子振動分光法を探索すること、(3)非弾性トンネル分光により検出されるスピン状態を手がかりに、分子スピンと吸着場である表面との相互作用を明らかにすること、(4)超伝導・磁性体界面におけるアンドレーフ反射を利用したナノスケールでの伝導評価の試み、について研究を推進する。項目(2)について、計画より遅れているが、光学系の検討をおこない、新たな検出用ステージを導入するなどの方策を行っており、なんとか計画を実行したい。
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