当該年度は、以下の超分子錯体の合成および構造・機能解析を行った。 (1)人工生体高分子や合成配位子を用いる金属配列制御システム:金属錯体型人工DNAをカーボンナノチューブのギャップに固定し、一分子の電気伝導性を測定した。その結果、ヒドロキシピリドン-Cu(II)塩基対を一つ含むオリゴDNAは、天然の塩基対に匹敵する伝導度を示したが、Cu(II)イオン非存在下では検出限界以下であった。Cu(II)の数が増えると伝導度は高くなる傾向が見られた。現在、蛋白質との共結晶化による構造決定を検討中である。 (2)超分子カプセルや大環状化合物を用いた動的空間制御システム:アニオンゲストを認識するさまざまなカプセルあるいはかご型分子の合成に成功した。例えば、両端に二つのPt(II)中心をもつかご型分子は、錯体間の静電相互作用を利用して、内部に三つのPt(II)を配列することが可能であり、世界初のディスクリートなマグナス塩の単離と構造決定に成功した。今後、物性評価を行う。 (3)分子運動の連動システム:以前に当研究室で開発した金属錯体型分子ボールベアリングを基本骨格として、連動型および非連動型ダブルボールベアリング、ロタキサン構造と連結した回転・直進連動型分子クランクの合成に成功した。これらの溶液中の分子運動の詳細を各種NMR測定により明らかにし、一部の分子については、X線構造解析により結晶構造を決定した。現在は、長距離運動伝搬を目指した連動型分子ギアの構築を進めている。
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