イオン液体に少量の水を添加した"水和イオン液体"の詳細を解析するとともに、生体物質との親和性を評価し、細胞を安定化させるイオン液体の設計にまでつなげることを目標として研究を推進させた。 水和イオン液体と生体との高い親和性は、細胞膜を構成するリン脂質の親水基部分の構造と類似したコリン・リン酸二水素塩において顕著であり、生物の構造単位である細胞の表面構造と類似の水和環境を与えるため、タンパク質などの生体物質との親和性が高いと考えられる。そこで、これらのイオン液体に少量の水を加えた系について、物理化学的な解析をした結果、強く結合し、凍らない水分子(不凍水)よりも弱く相互作用する中間水の存在が確認された。この中間水は低温結晶化(cold crystallization)を示すことが熱測定から明らかになった。他の多くの含水イオン液体ではこのような挙動は見られず、この中間水の存在が生体適合性やタンパク質の安定溶解につながるものと考察した。水とイオン液体の混合系について、相分離状態なども詳細に解析した。 細胞との親和性測定では、細胞表面での適合性をクリアーしても、浸透圧の調整が必須であり、通常の水和イオン液体では浸透圧差が大きく、細胞生存率は低い。そこで、必要以上の水を含むことのできない疎水性イオン液体を各種作成し、細胞から水を吸収しない液体として利用し、細胞を包括固定する試みを行った。
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