研究課題/領域番号 |
21226001
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
川上 養一 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (30214604)
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研究分担者 |
船戸 充 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (70240827)
岡本 晃一 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 特命准教授 (50467453)
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研究期間 (年度) |
2009-05-11 – 2014-03-31
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キーワード | 近接場光学 / マルチプローブ分光 / 半導体ナノ構造 / 発光機構解明 / 新規顕微分光応用 |
研究概要 |
昨年度は,2探針ファイバープローブタイプの近接場光学顕微鏡(DSNOM)において,光学シミュレーション(FDTD法)による光ファイバー構造の最適化や同期2バンド変調法(Synchronous-DBM)法による2ファイバー間の精密距離制御など,装置開発に関して,論文の発表(Rev. Sci. Instrum., 83, 083709/1-11, (2012).)を行った. また,(1)温度ドリフト抑制のため温度環境を±0.1℃とするためのブース設置,(2)チューニングフォークへの反共振補償回路の実装,(3)静電容量センサーを用いたピエゾ素子の位置制御・精度の向上などにより,装置の性能と安定性を高めることに成功した. さらに,昨年度は表面プラズモンポラリトン伝搬の可視化に関して成果が得られた.表面プラズモン(Surface Plasmon: SP)とは,金属と誘電体の界面に存在する自由電子のプラズマ振動のことを指す.SPは電磁波と結合して,表面プラズモンポラリトン(SP polariton: SPP)と呼ばれる電磁波モードを界面に形成する.そこで,Ag薄膜およびAg細線におけるSPP伝搬をDSNOMによって評価した.その結果,薄膜の場合にはSPPが同心円状に広がって伝搬しているのに対し,細線の場合には,干渉縞が形成されていることが分かった(Appl. Surf. Sci., 83, 083709, (2012).).これは,SPPの波としてのコヒーレンスが顕在化している例として興味深い.また,測定結果とシミュレーション結果を比較することで,Agの複素比誘電率の妥当な見積もりやAg表面・端面のナノラフネスの効果を取り入れた詳細な解析が可能となった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2探針ファイバープローブタイプのマルチプローブ分光装置(DSNOM)は,種々の取り組みによって装置の完成度を高め,基本原理の特許出願(PCT/JP2010/060494),装置構成の論文化,および企業への技術移転と製品化と,順調に開発が進展している.また,開発したDSNOM装置を用いて,励起子とプラズモンの空間移動の可視化を実現し,論文発表するなど,当初の目標に向けて順調に研究が進展している.つぎの研究・開発目標は,(1)DSNOM装置に様々な機能を付加することと,(2)測定対象を拡大して装置としての有用性を高めていくことにあるが,順調に体制が整いつつある. すなわち,(1)については,(a) 表面プラズモン効果の応用 と (b)近接場過渡レンズ法による非輻射再結合過程の可視化を中心に取り組みを進めている.(a)は,光ファイバー先端に金属細線をカップリングさせ,表面プラズモン効果によって直径数10nm程度の非常に小さなコア径での光エネルギー導波を行い,これをプローブとして用いる手法である.そのためには,各種金属の複素誘電率の分散特性や金属形状による散乱特性を精密に評価しておく必要があるが,銀細線構造でのプラズモン導波を皮切りに研究は順調にスタートしている.(b)については,キャリアの空間分布やキャリア再結合後の熱の発生を時間軸で区別することができる.現在,FDTDシミュレーションによって最適なマルチファイバー構造や外部光学系とのカップリング方式などについて設計が進んでおり,万全の態勢で臨んでいる. (2)については,プラズモニクス応用としてナノフォトニクス光配線のプロジェクト(学内の別グループとの共同)が進行している.また,新機光材料やバイオ計測などの提案を受けており,明るい見通しを持っている.
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今後の研究の推進方策 |
本研究の最終目標は,2本以上の多数プローブを用いたSNOMの開発を目指して,その原理と技術的課題を明確にすることにある.多数プローブの基本構成としては,マルチファイバータイプと微小開口アレイタイプのものが挙げられるが,これら原理については,既に2000年に特許出願(特願2000-216432)している.しかしながら,いくつかのマイナーな問題から拒絶査定となっていたが,本研究助成後の粘り強い修正・対応によって,2010年9月24日に特許査定されるに至っている. マルチファイバーは,多数本のファイバーを束ねて加熱後に延伸することで作製することが可能で,すでに連携企業(JASCO)において試作品が開発されており,ファイバー間のクロストークの評価などを実施する予定である. 微小開口アレイは,二次元上に配列させた開口をどのように開閉させるかの検討が進んでいる.装置のイメージとしては,液晶プロジェクター用の微小電気機械素子(Micro electro mechanical systems: MEMS)によるマイクロミラーアレイに近いが,プロジェクトの最終年度までに,設計を完了させる予定である. 上記のように本研究は,所定の成果を収めるとともに,次なる研究プロジェクトへの発展性も開拓されたものと自己評価できる.
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