研究課題/領域番号 |
21226008
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
木本 恒暢 京都大学, 工学研究科, 教授 (80225078)
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研究分担者 |
須田 淳 京都大学, 工学研究科, 准教授 (00293887)
西 佑介 京都大学, 工学研究科, 助教 (10512759)
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キーワード | 炭化珪素 / パワーデバイス / 拡張欠陥 / 点欠陥 / キャリア寿命 / PiNダイオード / 接合終端 |
研究概要 |
本年度は、SiC厚膜成長層に存在する拡張欠陥の物性解明、キャリア寿命キラーの特定とキャリア寿命制御、および熱酸化による点欠陥低減の機構の解明と定式化に取り組んだ。さらに、計画を前倒しして高耐圧PiNダイオードの基礎研究を開始した。 (1)SiC成長層中の拡張欠陥の物性解明(担当:木本、須田) PLマッピングおよびPLイメージング測定により、様々な拡張欠陥(転位や積層欠陥)がキャリア再結合に及ぼす影響を定量的に評価した。自由キャリアの再結合によるバンド端発光に着目すると、拡張欠陥周辺で著しく発光強度が低下する一方、長波長の近赤外発光に着目すると、各々の転位から特徴的な発光が観測されることを見出した。また、キャリア寿命の高分解能マッピングを行って拡張欠陥近傍におけるキャリア再結合過程を解析し、キャリア寿命に及ぼす影響が、積層欠陥>基底面転位>貫通らせん転位>貫通刃状転位の順に大きいことを明らかにした。 (2)SiCにおけるキャリア寿命キラーの同定とキャリア寿命制御(担当:木本、西) SiC厚膜成長層を用いて、キャリア寿命と各種欠陥(深い準位、拡張欠陥)との相関を詳細に調べることにより、Ec-0.65eVのエネルギー準位に存在するZ1/2センターをSiCにおけるキャリア寿命キラーと同定した。試料表面や成長層/基板界面における再結合も考慮したキャリア再結合を記述するモデルを構築し、キャリア寿命評価における指針を提示した。さらに、低エネルギー(100-200keV)電子線照射を活用して意図的にキャリア寿命キラーであるZ1/2センターを制御性よく生成することにより、SiCにおけるキャリア寿命制御に成功した。 (3)SiCにおける点欠陥低減機構の解明(担当:木本、西) 本研究において、熱酸化を施すことでSiC結晶の表面側から主要な深い準位が消滅することを見出した。本年度は、熱酸化による過剰なc原子の放出、SiCバルク中のC原子の拡散、C空孔との結合による深い準位の消滅を記述するモデルを構築し、Z1/2センター低減を定量的に予測することに成功した。このモデルを活用することで、厚さ200μmまでZ1/2センターを消滅させ、26μsという最高のキャリア寿命を達成した。 (4)高耐圧SiC PiNダイオードの構造設計(担当:木本、須田) 超高耐圧を得る上で重要なSiC PiNダイオードの電界集中緩和構造の研究に取り組み、独自の空間変調型接合終端構造を考案し、その有効性をシミュレーションおよび実験により明らかにした。提案した空間変調型接合終端構造は、表面電荷や注入イオンの活性化率の揺らぎが存在するSiCにおいても高い耐圧を再現性よく得るのに適していることを示した。また、SiC厚膜成長層を用いることで、21.7kVという最高耐圧を達成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定通り、高純度SiC厚膜の高速エピタキシャル成長、主要な拡張欠陥の構造同定とエピタキシャル成長時に発生する拡張欠陥の大幅な低減、全ての主要な深い準位の検出と電気的性質の解明、熱酸化による主要な深い準位の低減とキャリア寿命の大幅な増大、電子線照射を活用したキャリア寿命制御など、SiCの欠陥エレクトロニクスの基盤を構築しつつある。また、計画を前倒しして高耐圧PiNダイオードの作製に着手し、SiC厚膜成長層に独自の接合終端構造を適用することにより、半導体素子として最高の耐圧を達成した。このように、結晶およびデバイスの両分野において世界水準の成果を挙げつつあり、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、SiC欠陥エレクトロニクスの集大成を進めながら、超高耐圧・高温SiCデバイス実現によるロバストエレクトロニクスの確立を目指す。前者については、SiC結晶における主要な深い準位の一つであり、キャリア寿命制限欠陥と同定したZ1/2センターについて、様々な実験データを取得しながら、理論計算結果との照合を進め、その微視的構造(起源)を解明する。また、系統的な研究報告例がほとんどないp型SiC厚膜成長層の物性を明らかにする。後者については、高耐圧と低損失を両立できるPiNダイオードやバイポーラトランジスタを設計、試作し、その高温特性や長期信頼性を評価する。また、SiCデバイスの耐圧や増幅率の極限を目指し、既存の素子に対する優位性を明らかにする。研究計画の変更は予定していない。
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