研究課題/領域番号 |
21226010
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
浅田 雅洋 東京工業大学, 大学院・総合理工学研究科, 教授 (30167887)
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研究分担者 |
宮本 恭幸 東京工業大学, 大学院・理工学研究科, 准教授 (40209953)
西山 伸彦 東京工業大学, 大学院・理工学研究科, 准教授 (80447531)
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キーワード | テラヘルツ波 / 大容量無線通信 / テラヘルツ発振デバイス / 共鳴トンネルダイオード / 集積スロットアンテナ / 室温テラヘルツ発振 / 直接変調 |
研究概要 |
大容量テラヘルツ無線通信のキーデバイス開拓を目的とし、発振デバイスの高周波化・高出力化、大容量伝送のための変調特性の把握、無線伝送の基礎実験を行い、今年度は以下の成果を得た。 共鳴トンネルダイオード(RTD)発振器の高周波化について、トンネルとコレクタ走行の時間を短縮する狭井戸および多層コレクタ構造を提案・作製した。多層コレクタ構造では1.08THzの発振、また、狭井戸構造では1.3THzの基本波発振が得られ、室温電子デバイスの最高発振周波数を更新した。多層コレクタと狭井戸の同時導入によりさらなる高周波化が期待できる。高出力化については、昨年度に高出力を得たオフセット構造において、アンテナ幅調整によるインピーダンス整合を行えばさらに高出力化が可能なことを実験で明らかにした。狭井戸構造による高出力化、および、アレイによる電力合成の基礎となるオフセット素子間の相互注入同期も実験で示した。 RTDの直接変調による560GHz無線伝送を行い、3Gbpsで訂正可能なエラーレート10^<-3>以下を得た。伝送速度はRTDの外部回路で制限されており、高速伝送可能な外部回路の構造提案と最適設計を行った。 外部変調器として、光信号によるプラズモン導波路型変換器の設計を行った。厚さ0.7um程度の半導体光吸収層上下に電極をつけ、電界印加と光信号照射によるキャリア生成と引き抜きによって、導波されたTHz波を消光比10dB以上で変調できることを数値解析によって明らかにした。 変調器駆動用高速トランジスタでは、集積化に適したInGaAs MOSFETの研究に取り組み、ALDによる良好なMIS絶縁膜、エピタキシャル層によるソースの高濃度化と50nmまでのチャネル縮小によりドレイン電圧1V時に3A/mmというMOSFETでの世界最高の電流値を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
素子の高周波化について、計画において提案していた新構造(グレイデッドエミッタとコレクタ多層構造)の他別の新構造(狭井戸構造)も提案してそれらの効果を実証し、電子デバイスでは最高周波数の1.3THz室温基本波発振を達成したこと、素子の高出力化について、やはり計画通り、単体ではアンテナ形状最適化による高出力化を実証し、アレイ構成ではオフセットアレイによる相互注入同期を示し高出力化の見通しを得たこと、変調特性について周波数上限を決めている要因を明らかにし、高速化のための構造を提案するとともに、伝送の基礎実験も行い大容量伝送の見通しを得たことなどから、上記達成度とした。 この他、計画に記載したビームステアリングについては、基礎となるアレイ素子間相互注入同期が示せたので、位相制御しやすいアンテナ構造を集積し動作を試みる段階であるが、上記で得られた高出力化の見通しから、異なる指向性を持つ素子間のスイッチングなど簡単な新方式の可能性も出てきたため、方式について総合的な検討を行う。この点についても順調な進展と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの成果で、RTD発振器の高周波化・高出力の方策に見通しが得られたので、引き続きそれに沿って進める。高周波化については、提案した2つの新構造それぞれの最適化および同時に取り入れた構造を用い、これを高電流密度の素子に導入することにより更なる高周波発振を目指す。高出力化については、高周波化RTD構造、オフセットアンテナ、RTDとアンテナのインピーダンス整合、アレイによる電力合成を導入して進める。 変調特性の把握と伝送特性測定については、周辺回路構造の最適化により高速直接変調特性を測定し、それを用いて伝送実験を行う。また、昨年度までに得られている、RTD発振素子への光照射によるテラヘルツ出力の変調について、応答速度の把握と高速応答のための構造を考案し実験を行う。ビームステアリングについてはアレイ素子間の位相制御やスイッチングなど、可能な方式について並行して検討を行う。 外部変調器については、設計を完了した信号変換器を実際に作製していく。まずプラズモン導波路へのTHz波の伝搬を確認し、その後表面より光を照射してTHz波伝搬特性の変化を観測する。その実験結果を用いて適宜設計へとフィードバックをかけ特性の向上を図る。 駆動用トランジスタについては、集積化が容易なInGaAs MOSFETによって高駆動電流が得られたので、InGaAs MOSFETで薄膜化した絶縁膜とT型ゲートを持つ高速動作が可能なInGaAs MOSFETを作製し、高速動作の実証を行う。作製したトランジスタの遮断周波数などをマイクロ波特性を通して評価する。
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