研究概要 |
沿岸域重要施設の具体事例として,名古屋港内の浚渫土砂埋立地(名港ポートアイランド)および高潮防波堤(知多堤),羽田D滑走路人工島,上越火力人工島,名古屋港南五区耐震護岸,若狭・舞鶴自動車道盛土,等の耐震性を数値解析的に再評価した.地盤のモデル化では,海底地盤の掘削・埋立や盛土の施工,構造物の建設など,実際の施工履歴を有限要素メッシュ追加の手法を用いて可能な限り忠実に模擬している.こうすることによって,埋立等の大荷重によって生じる地盤の性状変化を追従することができ,自然地盤および人工地盤の複雑な弾塑性プロファイルを精密に記述することができる.以下のような成果を得た. ・直下に軟弱な沖積粘土層厚が厚く堆積する高潮防波堤は,サンドドレーン工法を用いて建設されている.サンドドレーン工法では,高潮防波堤建設時の圧密促進効果は期待できるものの,地震中~地震後の沈下量は抑制することはできない.主に粘土層が地震中に乱される影響で,地震中から地震後にかけて大沈下を生じる危険性を指摘した, ・現状の名古屋港ポートアイランドを忠実にモデル化した地震応答解析結果から,レベル1地震動では築堤は大きな崩壊はしないものの,レベル2地震動発生時には築堤が大きく滑り崩壊してしまうことを示した.浚渫土砂の仮置き場として利用されているポートアイランド埋立地盤は現在,海抜15mにまで達しており,築堤崩壊時には仮置き浚渫土が航路を埋めてしまい,主要国際貿易港としての機能を低下させてしまう危険性を指摘した. ・沖合の軟弱地盤上に建設された羽田D滑走路では,サンドコンパクションパイル工法やサンドドレーン工法によって軟弱地盤を改良したあと,管中混合固化処理工法を用いて海上空港用地を造成している.忠実なモデル化の後で,各種地震波を用いて地震時応答特性調べた結果,これら地盤改良の効果を確認することができた.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
海溝型Strong Ground Motionが及ぼす特別な効果として,従来はあまり注視されてこなかった,1)軟弱粘土地盤の地震被害,2)深部地層構成が表層の液状化に及ぼす影響,について興味深い知見を得ている.また,沿岸域重要施設の耐震性再評価として複数の具体事例を終えており,おおむね順調に研究が進んでいると判断している.
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今後の研究の推進方策 |
現在,地盤構造物の設計においても性能設計の思想が導入されている.性能設計では,最終的に出来上がる構造物の要求性能は,基本的にユーザーによって決められ,技術者はこれに応じて,要求性能を満足させる設計を行う必要がある.地盤構造物の性能設計を開発・実施する上で,従来の対象を決めてから対象毎に使い分ける解析技術では果たすことができず,「地盤に何が起こるかを教えてくれる」本解析技術でしか果たすことができない役割と位置づけを整理し,本解析技術の利用法を検討する.具体の解析事例から得られた知見をまとめることで,従来の設計指針の問題点と改良点を抽出していく.また本研究課題では,地震中の安定問題だけに留まらず,地震発生直後から数十年にわたって継続する変形挙動までも追っている.従来の設計指針では十分に考慮されてこなかった地震後の変形挙動までも考慮にいれた新しい性能設計法の提案・確立を目指す.
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