研究課題/領域番号 |
21226014
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
日高 健一郎 筑波大学, 芸術系, 教授 (30144215)
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研究分担者 |
田村 幸雄 東京工芸大学, 工学部, 教授 (70163699)
石崎 武志 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, センター長 (80212877)
原 隆 徳山工業高等専門学校, 土木建築工学科, 教授 (50124102)
水嶋 英治 常磐大学, コミュニティ振興学部, 教授 (70372886)
高根沢 均 神戸夙川学院大学, 観光学部, 講師 (10454779)
井上 浩一 大阪市立大学, 文学研究科, 教授 (80106335)
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キーワード | 地中海建築士 / ビザンティン / 初期教会堂 / 遺跡実測 |
研究概要 |
ハギア・ソフィア大聖堂(トルコ)では堂内外の環境調査ステーションを設置し、微気象モニタリングを開始した。同時に壁体表面の含水率を測定し、雨水浸透モデルを作成、水分移動のシミュレーションを行った。モザイク探査では、漆喰層透過と金属成分検出精度に関して国内実験を行った結果、ミリ波による探査が有効である可能性が体ことを確認し、次年度に向けて準備を整えた。ハギア・ソフィア当局から、博物館としての公開支援と危機管理(災害時の観光客誘導法、避難経路確保)に関する提案を強く要請されたので、博物館学の視点から堂内動線の調査分析を行い、避難計画を提示した。チュニジアではハイドラ遺跡の調査開始を目指したが、すでにフランス隊が調査を開始したこともあり、政府考古庁と協議の結果、同等の遺跡である、ル・ケフのサンピエール聖堂を調査対象とすることで合意し、研究許可書の署名を終え、熟覧調査を開始した。テベッサ遺跡に関するアルジェリア政府との協議を開始した。特に、過去の修復評価という研究目的に対し、アルジェリア政府が過去の同国専門家による修復作業への批判を過大に恐れたため、難航し、同国の事務機構硬直化の影響で進展が見られなかった。リビアではトクラ遺跡の東教会堂の発掘を開始した。ブッシュと表土の除去により、東端のアプシスに相当する円弧上の壁面が確認できた。作業は次年度に継続する。シリアのルサファ遺跡内にある教会堂遺構調査では、アレッポ大学の研究協力者がシリア政府との研究調査契約締結を進めたが、政情不安のため、年度内の研究再開を断念した。この結果、契約締結と、研究作業開始に充当する研究資金を次年度に繰り越すこととし、必要な事務手続きを行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画していたシリアのルサファ遺跡での調査が政情不安と騒乱によって実施できなかったことが、研究作業遅延の最大の理由である。治安はきわめて悪く、研究を行うことは不可能である。アレッポ大学の研究協力者とも連絡が取れず、研究開始直前の段階(研究許可書の署名交換)にあったが、ルサファ遺跡での研究は断念し、その研究資金を次年度に繰り越して、リビアのトクラ遺跡発掘に充当することとした。リビアに関しても、民主化運動と騒乱により発掘拠点として確保した民間家屋が使用不能になるなど、考古庁での研究開始協議は順調に進んだものの、未だ発掘開始に到らないが、ベンガジ付近の治安回復をまって直ちに作業が開始できるよう、リビア側研究協力者と準備を進めている。以上から、必ずしも当初計画は順調に進んでいない。しかし、それを補うべく、他の研究対象に関する研究を進めることができた。ハギア・ソフィア大聖堂、ジェラシュ遺跡については、順調に研究を行うことができたので、研究全体の評価は「3 やや遅れている」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
ハギア・ソフィア大聖堂では、モザイク探査の現地実験を行う。ギャラリー階東側に足場を設置し、可搬型ミリ波測定器により、漆喰面がはがれた箇所と被覆箇所で探査を実施し、波形画像を比較する。南階上廊の東ベイの壁面および南ティンパヌム基部の壁面を実見エリアに想定している。他の場所で得られた画像の再分析とこのエリアの画像の比較を進めつつ、非破壊調査の手法としての確立を目指す。環境調査は、水分浸透による壁体劣化状況の観測を進め、特に堂内各所で浸透深度を測定し、方位、日照の違いによる雨水浸透のモデル化を行う。微気候長期自動観測用のステーションを設置し、モニタリングを開始する。シリアのルサファ遺跡での教会堂遺構調査が開始できる場合は、繰り越した研究資金を充当して調査を始めるが、政情安定が望めない場合、その繰り越し資金により、リビアでトクラ遺跡内の東教会堂の発掘作業を開始する。リビアの研究協力者と現地で意見交換を行い、発掘区域と年度ごとの作業量を決定し、リビア政府考古庁で発掘調査許可に署名、ベンガジでは必要道具の調達など、準備を進める。ブッシュと表土の除去により、東端のアプシスに相当する円弧上の壁面(現在ごく一部が露出)内外を掘り下げ、そこから西に向かってトレンチを入れ、身廊部分へと発掘を進める。散在する石材のうち、教会堂の円柱、階段、壁体、ヴォールト等を構成した大型ブロックには、原位置を特定できるようにバーコードを貼付する。東教会堂サイト全体の測量も併せて実施する。ヨルダンのジェラシュ遺跡では、3次元レーザースキャナーによる3連教会堂の実測を行う。また、西側アトリウムの発掘、およびアトリウム一部を覆う表土の除去を行う。構造補強の必要性を検討するため、アトリウムの円柱の基礎状況を確認する必要がある。アトリウムで小区画を設定し、基礎状況の確認のために発掘を実施する。
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