研究課題/領域番号 |
21226014
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
日高 健一郎 筑波大学, 芸術系, 教授 (30144215)
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研究分担者 |
高根沢 均 神戸夙川学院大学, 観光学部, 講師 (10454779)
原 隆 徳山工業高等専門学校, 土木建築工学科, 教授 (50124102)
田村 幸雄 東京工芸大学, 工学部, 教授 (70163699)
水嶋 英治 常磐大学, コミュニティ振興学部, 教授 (70372886)
石崎 武志 独立行政法人国立文化財機構東京文化財研究所, 保存修復科学センター, センター長 (80212877)
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研究期間 (年度) |
2009-05-11 – 2014-03-31
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キーワード | 地中海建築士 / ビザンティン / 初期教会堂 / 遺跡実測 |
研究概要 |
1)ジェラシュ遺跡:西側アトリウムの表土を除去し全体形状を確認、実測。ナルテックス内での試掘を進め、過去の修復の目視調査を行った。ナルテックスでは、地下約70㎝付近で先行建築の基礎遺構と舗床モザイクが出土。発掘当時の写真を参考に現状との比較を行い、三次元オルソ画像上に劣化状況を記録。聖ゲオルギオス聖堂の南側に積み上げられた過去の発掘・修復作業の土砂や石の堆積表土を除去、教会堂の南側の街路面全体を明らかにし、ポーチ跡と推定される大理石の敷石と柱の跡および障壁の土台を確認。2)ハギア・ソフィア大聖堂:壁面モザイクの非破壊探査手法の確立を目的とする作業を継続。マルチパス・リニアアレイ・レーダーを使用し、南階上廊の東ベイの壁面、南ティンパヌム基部の壁面においてミリ波レーダーによる被覆モザイクの探査、画像化の実験を行って一部領域で表層背後のモザイクの存在を捉えることができた。並行して実施した環境調査では、2建築外環境計測ステーション、建築内環境計測のための無線センサノードおよびデータロガーの計測データの収集および内壁析出塩の採取、内外壁モルタルおよびレンガ試料の採取をおこなった。ハギア・ソフィア当局に報告書を提出し、外壁面からの雨水の浸透により、内壁面の含水率が上昇すること、外壁面の修復を行うのは、壁体内部の含水率が低くなる時期(8月~10月)に行うことが望ましいことを指摘。3)サン・ピエール聖堂:3次元レーザースキャナーによる遺構の実測調査を行い、チュニスル・ケフで調査結果の報告を行った。上部架構および双柱形式について、過去の修復と現存状況の詳細比較調査を実施した。4)トクラ遺跡発掘調査:東の教会堂の発掘継続。サイト東半分のブッシュ除去とアプシスの発掘、半円壁面および散乱する外壁石材、内部円柱断片の実測を行った。リビア側の要請に応じて、遺跡が面する海岸浸食の状況も並行して実施。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
シリア、アルジェリア、エジプトでの調査は政情不安のため実施できていない。しかし、25年度計画調書、中間報告書に記載したように、トルコ、ヨルダン、リビア、チュニジアではほぼ計画通りに調査が進んでおり、成果の取りまとめに着手している。シリア、アルジェリア、エジプトの3か国では調査を断念し、その分の人的、物的資源をトルコ、ヨルダン、リビア、チュニジアに集中投入するという計画変更を行っており、計画変更後の調査活動としては、全体を見ると「おおむね順調」と言える。「完璧に順調」であるのではなく、「おおむね順調」と判断する要素としては、調査対象国の政府窓口に人事異動があり、また、研究代表者所属機関(筑波大学)で学長が病気となり新学長選出となったため(2012年度)、調査契約書の所属長署名が円滑に進んでいないこと、加えて、研究代表が所属機関を定年退職し、別の大学(東京芸術大学)に移籍するため(2013年度)、調査契約の署名に遅れが生じていることが挙げられる。現在、こうした書類交換の遅れや再署名によって、最終年度である2013年度の調査活動に影響が出ないよう努力・調整している。上記4か国の担当者と本研究チームとは、これまでの研究を通じて信頼関係を築いており、2012年度調査では、上記の研究契約書署名交換で大きな問題は出ていない。リビアのトクラ遺跡では、ベンガジ地方遺跡総括監督官、トクラ遺跡監督官双方から、研究調査活動に対して厚い信頼を得ており、研究協力者アハメット・ブザイアン博士の協力を得て、発掘調査が順調に進んでいる。2013年度はより長期の研究発掘を実施予定である。発掘でモザイクが出土しているので、最終年度には、モザイク研究者が研究協力者として加わるなど、態勢の充実にも努めている。
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今後の研究の推進方策 |
ジェラシュ調査では、出土した先行建築と教会堂、および石畳街路の年代関係について考察を進め、3連教会堂周辺の街路構造を明らかにすることで、ローマ期の街区と3連教会堂の位置関係を特定する。ヨルダン考古庁、ジェラシュ遺跡監督局と協議しつつ、遺跡の保存修復および出土遺構の保存公開を進める。教会堂遺構本体については、構造補強に関する力学調査および補強方法の提案を行う。ハギアソフィア大聖堂調査では、堂内各所で得られた画像の再分析を進めつつ、現地調査を再度行い、非破壊調査の手法としての確立を目指すとともに、アヤソフィア博物館と協力し、階上廊ヴォールトやティンパヌムにおけるビザンティン時代のモザイクの残存有無の診断および修復に関する計画を検討する。堂内外の環境調査を継続し、堂内外の水分移動のシミュレーション結果の分析をまとめる。サン・ピエール聖堂調査では、南北両側に残存するオプス・アフリカーヌム壁面の詳細調査を行い、南北壁体の建設年代の違いを考察し、他の作例(スベイトラ聖堂、ハイドラ聖堂)との比較を行う。リビアのトクラ遺跡では、さらにトレンチを2方向に伸ばし、会堂東半分の構造を明らかにする。これにより、双柱の有無、西側への接続部分での段差、会堂外側を通る街路との関係が明らかになると予測される。 年度末には、東京で、2日間の研究成果報告会を実施する。調査対象国から6名の専門家を招聘し、日本側とともに成果を発表し、今後の研究協力について意見交換を行う。研究成果の最終報告書の取りまとめを行い、成果を公表する。
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