研究概要 |
TaおよびReが,Ni_3Al-Ni_3V擬2元合金(Ni基超々合金)の強度・硬さ,あるいは耐摩耗性を飛躍的に向上させる元素であることに関して,詳細なTEM観察によりその機構解明を行った。Taは初析Ll_2(Ni_3Al)相とチャンネル部のDo_<22>(Ni_3v)相の両相に分配され,顕著な固溶強化をもたらす。一方,Reは初析Ll_2相中にはほとんど固溶せずチャンネル部に分配されるが,この際,Ni_3Vの相安定性を著しく低下させチャンネル部を不規則化してしまう。ここで時効熱処理を行うと,チャンネル部でDO_<22>+Ll_2への相分離(規則化)が生じ,硬さが上昇する。さらに,この規則化の際にチャンネル部においてRe-rich組成の微細粒子による析出硬化も生じる。TaとReを同時添加すると上記の硬化機構が重畳して800HVもの非常に高い硬さが得られる。また,Ni基超々合金については,元素粉末を用いた要素粉末法により緻密度の高い健全な焼結体の作製に成功するとともに,固相反応による2重複相組織形成過程を明らかにした。さらに炭化物等の硬質粒子とのハイブリッド材の試作にも成功し,現用の超硬合金の特性を超える新規な高温耐摩耗材料創製への足掛かりを掴んだ。一方,Ni_3(Si,Ti)基金属間化合物合金においては,第4元素(Al,Co,Cr,Mo)添加による組織,機械的性質,耐酸化性への効果を調査した。これら4元素全てについて,室温から高温にかけての強度,延性が改善(向上)され,耐酸化性改善には特にAlとCrの添加が有効であった。他方,本合金にCo,Cr,Moを添加するとLl_2+Al(fcc)の2相組織となるが,Mo添加合金ではfec相中に50nm以下の微小なLI2相が分散する特異な微細組織が形成され,強度・延性に優れた新規なNi_3(Si,Ti)基複相合金の開発に成功した。また,これまで未解明であったNi_3(Si,Ti)合金の溶液中の腐食挙動について,塩化ナトリウム溶液中の孔食挙動が調べられ,純Niに比べてNi_3(Si,Ti)の耐孔食性は優れていること等が明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
用途創製に関しては,Ni_3Al-Ni_3V系複相金属間化合物合金(Ni基超々合金)製の摩擦攪拌接合(FSW)ツールを開発し,企業との共同研究で硬質・高融点材料用FSW装置の実用化を達成した。また,Ni_3(Si,Ti)系合金製の耐熱ボールベアリングの試作にも成功している。基盤学問体系構築については,状態図研究および熱力学・電子論的研究により,相平衡と相安定性についての基礎的知見が得られている。また,微細組織形成ならびに強化機構についても重要な実験データを蓄積しつつある。新たな合金開発・合金設計についても着実に研究が進められている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの微細組織観察,状態図研究による相平衡・相安定性の把握,熱力学モデルによる合金元素の置換挙動の検討結果を踏まえて,耐熱材料としての材料特性をより一層向上させる合金設計・開発を推し進める。特に,Ni_3Al-Ni_3V擬2元合金(Ni基超々合金)においては,耐酸化性向上に必要なV低減を実現化する合金設計に力点を置く。また,溶液中の腐食挙動についての基礎的研究も継続して,成分・組成や組織との関連を明確化する。一方,複相金属間化合物の新たなプロセス技術として,粉末冶金手法の研究もさらに加速化させ,硬質粒子とのハイブリッド材料創製技術の確立を目指す。用途展開に関しては,摩擦攪拌接合(FSW)ツールを始めとして,耐熱高強度・高耐摩耗材料としての材料開発研究を民間企業ならびに公設試験研究機関とも共同して研究を進める。また,工業レベルでの素材製造技術確立に向けての検討も引き続き行っていく。
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