研究課題/領域番号 |
21226022
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
吉田 陽一 大阪大学, 産業科学研究所, 教授 (50210729)
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研究分担者 |
楊 金峰 大阪大学, 産業科学研究所, 准教授 (90362631)
近藤 孝文 大阪大学, 産業科学研究所, 助教 (50336765)
法澤 公寛 大阪大学, 産業科学研究所, 特別研究員 (00403006)
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キーワード | 計測工学 / 時間分解吸収分光 / 高速反応の解析 / 短パルス電子線 / パルスラジオリシス |
研究概要 |
H23年度は、電子ビームのパルス圧縮と回転を両立したことによる等価速度分光法の原理実証と、ダブルデッカーフェムト秒電子ビーム発生によるパルスラジオリシス、およびフェムト秒パルスラジオリシスシステムの波長拡張と安定化等の高度化による放射線化学初期過程の研究を推進した。 1.電子ビーム縦・横方向分布変調法を用いた等価速度分光法パルスラジオリシス 等価速度分光法は、試料への斜入射と電子線パルスの回転により物質中の電子線と分析光の速度差による時間分解能劣化の問題を解決する手法であり、前年度まで電子線パルスの圧縮と回転の同時実現が非常に大きな困難であった。H23年度は、電子銃励起用レーザーの制御と収束電磁石および高精度パルス圧縮器による「電子ビームの縦・横方向分布変調法」を確立することにより、600fsへのパルス圧縮と18~45°でのパルス回転の同時実現に成功した。これにより等価速度分光法が可能となり、前年度4.3psに留まっていた時間分解能は1.2psまで大幅な向上を達成した。 2.ダブルデッカー電子ビーム発生とダプルデッカーパルスラジオリシス フォトカソード入射光学系のレーザー光を分岐し、時間遅延路により入射タイミングを調整することにより、空間的に4.7mm時間的に4.2ns離れたダブルデッカーフェムト秒電子ビームの発生と観測を達成した。さらに先行する電子線をチェレンコフ放射により分析光に変換することにより、電子線と分析光の同期時間ジッターがほぼゼロとなるダブルデッカーフェムト秒パルスラジオリシスシステムを構築し、水和電子の光吸収測定まで成功した。 3.フェムト秒パルスラジオリシスの測定波長拡張による放射線化学初期過程研究の高度化 パルスラジオリシスにより、多様な物質中の様々な活性種の時間挙動を測定するために、測定波長領域を紫外から赤外域まで広く拡張した。190nm-20μmで波長可変なコンピュータ制御のフェムト秒レーザー光源を導入し測定システムの多波長化を図ったことにより、生体中の放射線効果で特に重要なOHラジカル等を測定する準備が整った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の内容は、新規のパルスラジオリシスの開発とそれを活用した量子ビーム誘起現象初期過程の解明のハード面とソフト面の二つからなっており、両者が融合した研究の推進を図っている。電子線パルスの短パルス化と測定方法について、ストリークカメラによる従来測定法は限界に達しており、現在THz放射光発生による新たなパルス幅測定方法を検証している。等価速度分光法については、パルス圧縮と回転の両立を達成し時間分解能向上の原理を実証し、順調である。ダブルデッカー電子ビームパルスラジオリシスでは、ダブルデッカー電子ビーム発生と観測のみならず、光変換してパルスラジオリシスシステムの構築にまで到達した。現時点で、世界最高性能の時間分解能240fsを達成しており、量子ビーム誘起初期過程の幾つかの問題を解決し、新しい知見が得られつつある。現段階でも革新的な成果が数多く得られており、今後も予定以上の成果が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
平成24年度は、サブフェムト秒電子ビームの発生と計測方法の確立、等価速度分光法パルスラジオリシスの高度化を行い、アト秒・フェムト秒パルスラジオリシス法の確立と原理実証を重点的に行う。平成25年度は、開発した等価速度分光法とダブルデッカー電子ビームパルスラジオリシス法の要素技術を集約し、最適化することにより、図に示したアト秒パルスラジオリシスシステムの基盤を確立する。それと並行して、開発されたパルスラジオリスを活用し、量子ビーム誘起初期過程の研究を展開する。
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