細菌べん毛は回転モーターとらせん繊維型プロペラなどで構成される超分子ナノマシンである。本研究は、回転モーターでタンパク質輸送装置でもあるべん毛基部体で、未だに多くが不明な構成タンパク質の立体構造と配置と相互作用を解明し、基部体の動作機構を明らかにするのが目的である。 加速電圧300 kVの電子線には直径1ミクロンのサルモネラ菌は厚すぎて透過しづらいため、クライオ電子線トモグラフィーの解像度は10 nm以下に留まり、基部体の詳細な構造を見ることができない。そこで、FtsZの大量発現により直径0.4ミクロン程のミニ細胞を効率よく作成する条件を確立し、分解能を4 nm程度にまで向上させた。それぞれのミニ細胞には1~2本のべん毛と共に病原性因子分泌装置が複数見られた。両者はその構成蛋白質のアミノ酸配列相同性の高さと立体構造の類似性により、ともにIII型蛋白質輸送装置と呼ばれている。数多くのミニ細胞のトモグラムからべん毛基部体と病原性因子分泌装置の立体像を数十個抽出してそれぞれの平均像を求めた結果、これまで誰も見たことのなかったIII型蛋白質輸送に関わる複合体装置の細胞質側の立体構造が詳細に見え、両者の共通性と違いが明らかになった。 また、大量発現系から精製したべん毛構成蛋白質のX線結晶解析により、べん毛蛋白質輸送に関わるFliH/I複合体とFliPのペリプラズムドメイン、そしてべん毛基部体ロッド蛋白質FlgGの結晶構造解析が完了した。
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