Nanos2の上流に関して、昨年度Nodalシグナルが重要であることを明らかにした。TGFbシグナルはSmadシグナルを介して伝わることが知られていたため、昨年度はSmad4の条件付きノックアウトマウスを解析したが、Smad4が欠損してもシグナルは伝達された。そこで、今年度はSmad2及びSmad3の条件付きノックアウトマウスを導入して検討した。その結果、興味深いことにNanos2の発現にはSmad2が必須であるが、Smad3は関与しないことが明らかになった。また器官培養をもちいた阻害剤実験からP38シグナルがやはりNanos2の発現に重要であることが明らかになった。その分子機構を解析したところ、これはNodalシグナルとは独立にレチノイン酸シグナルを抑制することにより、間接的にNanos2の発現に寄与することが明らかになった。Nanos2と相互作用する因子として同定したDnd1の条件付きノックアウトマウスの解析も、ほぼ終了した。Dnd1不在下ではNanos2は標的RNAと結合できないために、RNAの制御が不可能になることがわかった。その主な標的としてRNA結合タンパク質Dazlを同定した。Dazlの発現が上昇すると、Nanos2が存在してもNanos2ノックアウトマウス同様な表現型が観察されることを確認した。また、この時Dazlが増加するとNanos2のP-bodyへの局在が低下しその結果として、Nanos2の機能が低下することが明らかになった。精子幹細胞の維持機構に関しては、精子幹細胞及びセルトリ細胞においてERKシグナルが活性化しており、セルトリ細胞ではERKの下流でGDNFが分泌され、精子幹細胞では、GDNF及び、FGFシグナルによってERKが活性化し未分化性を維持していることが明らかになった。
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