研究課題
本研究課題の研究内容・目的は、植物病害における宿主特異性の解明に向けて、植物病原糸状菌の生産する宿主特異的ACR毒素の生合成遺伝子クラスターの単離と、ACR毒素レセプター遺伝子ACRS mRNAの修飾・分解機構を明らかにすることである。毒素耐性品種は、この毒素レセプター遺伝子mRNAを修飾・分解するが、毒素感受性品種ではmRNAが分解されず、レセプタータンパクが翻訳されるため、病原菌の分泌するACR毒素により細胞死が引き起こされる。そこで、毒素耐性品種におけるレセプター遺伝子ACRSmRNA修飾・分解機構を明らかにし、感受性品種に導入することで、病害耐性を付加できると考えている。このACR毒素レセプター遺伝子mRNA修飾・分解機構の解明に向けて、まずレセプター遺伝子mRNAに特異的に結合するAmBP30タンパクを特定し、さらにAmBP30タンパクはRNA修飾・分解タンパク複合体の中のターゲットmRNA認識サブユニットであることを明らかにした。また、免疫沈降法・酵母two hybrid法の2法で、AmBP30と複合体化するPeptidyl-tRNA hydrolase signatureを持つRlemPtRH2と、Pseudouridine synthase motifを持つRlemtRPS1の特定に成功し、さらに8個の複合体形成タンパク候補を同定した。これら10個のタンパク質をコードする遺伝子を単離し、それらの機能の解析が進展している。植物病原糸状菌の生産する宿主特異的ACR毒素の生合成遺伝子クラスターの単離に関しては、ACR毒素生産菌ゲノムにのみ座乗するthioesterase遺伝子を明らかにし、毒素生合成に必須であるかどうかを標的遺伝子破壊法で検証した。
2: おおむね順調に進展している
通常、RNAは複数タンパクの複合体により分解されると考えられるため、ターゲットであるACR毒素レセプター遺伝子ACRSmRNAに結合するタンパクとしてアフィニティー精製したAmBP30を基点に、本研究の中でAmBP30複合体の構成タンパク2つを既に明らかにした。これらは免疫沈降・酵母two hybrid法の双方でAmBP30と複合化する事を明らかにし、さらにAmBP30と複合化する可能性のある関連タンパクを複数選抜出来ている。これらの知見は、これまで全く未知であったtRNA-Alaの介在領域分解機構の解明への大きな第一歩となるのみならず、ACRS遺伝子が座乗する介在領域RNAが分解されないためレセプタータンパクが翻訳され、植物ミトコンドリア病害発生の第一因子となる極めて独創性に富んだ事象の発見・証明につながる研究になると自負する。ミトコンドリア複合タンパクの特定という研究目標は達成され、さらに発病の主要因であるACR毒素の生合成遺伝子の特定と生合成遺伝子クラスター研究も順調に進展しているため、植物ミトコンドリア病発生機構を宿主側と菌側の双方から解明しつつあると自己評価したい。
最終年度は以下の3点を完了する。(1)AmBP30遺伝子プロモーターの負の制御因子を大腸菌発現系で生産し、プロモーターへの結合様式を明らかにする。(2)AmBP30複合体構成タンパクとして特定した2つのタンパクとAmBP30との相互反応に必須なアミノ酸の特定と、他の構成タンパクとの関係を明らかにする。(3)ACR毒素生産菌ゲノムのみに座乗し、thioesteraseをコードする遺伝子の毒素生合成における役割を明確にし、ACR毒素生合成に必要な遺伝子の全容を確認する。
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