研究課題/領域番号 |
21228004
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
福島 和彦 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 教授 (80222256)
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研究分担者 |
今井 貴規 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 准教授 (20252281)
松下 泰幸 名古屋大学, 大学院・生命農学研究科, 准教授 (60335015)
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キーワード | 二次イオン質量分析 / マッピング / 細胞 / リグニン / 走査電子顕微鏡 / スクロース |
研究概要 |
本研究の目的は、生きたままの植物細胞を急速凍結した試料において、飛行時間型二次イオン質量分析(TOF-SIMS)を用いることによって、細胞や細胞壁内にあるがままに存在するあらゆる構成成分(細胞質物質、オルガネラ構成成分、細胞壁中の多糖ならびにリグニン、抽出成分)の分布を、選択的に分子レベルで可視化することである。植物の細胞の構造を、視覚的に、また化学的に理解することは、あらゆる代謝物の生合成を理解する上で非常に重要である。しかしながら、細胞内に存在する分子は、水可溶性であったり、極めて不安定であったり、異質の物質と複合体を形成して存在していたりして、従来の方法では解析困難であった。 これらの課題を克服するために、前年度までに、窒素雰囲気下で急速凍結した生体試料をスライディングミクロトームを用いて平滑な面を作成する前処理室を設計・構築し、さらに、凍結した状態で試料をTOF-SIMSおよび走査電子顕微鏡(Cryo-SEM)に移動させることのできる搬送装置を備えた世界初の前処理システムを開発した。今年度は、前処理システムに改良をかさね、実際に、生きた植物(針葉樹、広葉樹)の急速凍結試料を用いて、グローブボックス内の凍結スライディングミクロトームを用いた試料切削、TOF-SIMS分析、Cryo-SEM観察を同一系内で連続的に行った。SEM試料室で氷を昇華することにより細胞形状、細胞内小器官レベルの位置情報を入手することが可能となり、スクロースなどの水可溶分子でも組織内マッピングを高解像度で行うことに成功した。 また、TOF-SIMS分析において欠かすことのできない、二次イオンの同定と定量法についても基盤的な研究を展開し、新規な分析法(リグニンのケミカルマッピング)を開発した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
世界で初めての凍結試料分析のためのTOF-SIMS前処理システムを開発した。生体内のスクロース、デンプン、フェノール性化合物などの分布を急速凍結植物試料を用いて明らかにした。これにより、これまで困難であった水溶性化合物の組織内分布に関する情報を化学情報と共に入手できる技術を獲得した。成果の一部は、新聞(日刊工業新聞、中日新聞)報道された。
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今後の研究の推進方策 |
凍結試料と乾燥試料とで異なる二次イオンの発生機構の解明、三次元ケミカルマッピングの解像度向上、細胞内物質輸送と細胞壁構築の解析、高分子の凝集状態により異なるTOF-SIMSスペクトルの機構解明等を行う。従来、電子染色された透過電子顕微鏡像により膜構造を有するオルガネラを中心として細胞構造が理解されてきたが、本研究では生体分子の濃度分布に基づく新たな細胞モデルを構築する。また、得られた成果をHP、シンポジウム開催等を通して社会に向けて発信する。
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