研究課題
本年度は、雄効果フェロモンの受容機構および中枢作用機構に関して特筆すべき進展を見ることができた。まずフェロモンの作用点である視床下部GnRHパルスジェネレーターの主要な構成神経がキスペプチンニューロンであることが示されていたが、実際にキスペプチンニューロンのクラスターから多ニューロン発射活動(MUA)を連続記録することによってS/N比にすぐれた明瞭なパルス活動が記録されるようになり、フェロモン生物検定の精度が大きく向上した。MUA記録をしながらフェロモン(候補分子または活性画分)を嗅覚系に提示すると、わずか1秒という短時間提示であってもキスペプチンニューロンの神経活動は即時に上昇を示し、フェロモン刺激が一定の閾値をこえるとクラスターが一斉に神経興奮を起こしてキスペプチンニューロンのボレー(volley;一斉発火)が誘導され、最終的に正中隆起からのGnRHデカペプチドの神経内分泌すなわちGnRHパルスを引き起こす、という雄効果フェロモンの作用機序の重要な一端が明らかになった。フェロモンがパルスジェネレーターを活性化するメカニズムに関しては、キスペプチンニューロン細胞内に共存するダイノルフィンやニューロキニンBの役割が前年度までの研究で推測されていたが、本年度に組織学的手法を用いてその仮説を証明することができた(J.NeuroscienceやJ.Neuroendocrinologyに公表)。一方、情動系のフェロモンに関しては、齧歯類において警報フェロモンとは逆の効果を持つ安寧フェロモンの存在が示唆されているが、今回、安寧フェロモンが主嗅覚系で受容されたのち嗅覚前野を経由して扁桃体に伝達される神経回路と、効果発揮に必要なタイムウィンドウが明らかとなった。これらの発見によりフェロモンが情動中枢に作用して恐怖反応を制御するメカニズムを解明する上で重要な手がかりが得られた。
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Physiology & Behavior
巻: 102 ページ: 188-192
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http://www.vm.a.u-tokyo.ac.jp/koudou/j-research1.htm