研究課題/領域番号 |
21228006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 裕司 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (40157871)
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研究分担者 |
武内 ゆかり 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (10240730)
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キーワード | 哺乳類プライマーフェロモン / 雄効果フェロモン / GnRHパルスジェネレーター / 警報フェロモン / 安寧フェロモン / リガンド分子同定 / フェロモン受容体 / 中枢神経回路 |
研究概要 |
雄効果フェロモンの産生母地である雄ヤギ頭部皮膚から放出される揮発性低分子化合物を、Tenaxカラム粉末を収納した特製のキャップを新規に作製することで効率よく回収できた。脱着した揮発成分をガスクロマトグラフィーを用いて分画し活性画分を絞り込んだ。この活性画分を構成する18成分を同定し、入手できないものはすべて合成した上で画分中の量や蒸気圧といった特性に準じて再構成し、合成フェロモンカクテルとして以後の実験に用いた。個々の成分について詳細に検討したところ、陽性反応率および所要時間のいずれの指標においても、 4-ethyl****<註>のみが単独で、ポジティブコントロールである雄の被毛あるいは18成分カクテルとほぼ同等のフェロモン活性を示すことが明らかとなり、フェロモン候補の最有力物質として同定された。<註:物質名は未発表のため伏せる> 情動系フェロモンに関しては、警報フェロモンが単独個体だけでなく個体間の相互作用に与える影響を調べるため、ラットの性行動に与える影響について検討を行った。警報フェロモンの提示により、雄ラットでは射精に必要なマウント数の増加など性行動の変化が認められた一方で、雌では影響が観察されず、警報フェロモンの性行動に対する影響は雄に特異的な抑制であることが示された。また警報フェロモンの中枢作用に関しては視床下部室傍核を中心とする脳内オピオイド系とCRH系が重要であることが明らかとなり、鋤鼻器と行動的・神経内分泌的反応を司る神経部位とをつなぐ神経回路としては分界条床核や脳幹の巨細胞性傍核などの中枢神経部位が深く関与していることが示された。さらにラット警報フェロモンは自己暴露によっても不安を亢進する効果がみられるなど、今後の研究展開にとって有用な情報が得られた。これらの発見は、情動系フェロモンの作用機序を解明する上で重要な手がかりとなることが期待される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、二種類のプライマーフェロモン分子 (反芻動物の雄効果フェロモンとげっ歯類の情動系フェロモン)の単離精製・構造決定と合成を端緒として、フェロモンの産生・分泌機構、フェロモンの受容機構、フェロモンによる脳機能の修飾メカニズムについて解析を行い、哺乳類におけるフェロモンを介した化学的情報通信システムの全容解明と応用技術開発の基盤形成を目的に掲げた。 雌の生殖内分泌系を強く刺激して雄効果をもたらす反芻動物の雄効果フェロモンについては、フェロモン効果をもたらす活性画分の絞り込みに成功した。その画分に含まれる18分子を構造決定し合成することで、人工のフェロモンカクテルを再構築し、活性を確認した。また主要な成分である4-ethyl****を同定するなど、雄効果フェロモンの本体と受容機構に関する研究は順調に進展している。 一方、本研究のもうひとつの主要なテーマである情動系フェロモンについては、これまでにラットの警報フェロモンが受容個体の不安レベルを亢進することで行動変容をもたらすだけでなく、社会行動に影響を与えることを明らかにし、また視床下部室傍核を中心とする脳内オピオイド系とCRH系が重要であることや、鋤鼻器と行動的・神経内分泌的反応を司る神経部位とをつなぐ神経回路としては分界条床核や脳幹の巨細胞性傍核などの中枢神経核が深く関与していることが示されるなど、こちらも研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
反芻動物の雄効果フェロモンについては、これまでにフェロモンリガンド分子として最有力候補物質が同定されたが、活性画分を構成するそれ以外の要素についても、活性の有無あるいは強弱を検討し、雄効果フェロモンの化学的性状を明らかにする。 雄効果フェロモンの受容体については、c-FosとV1Rのdouble in situ hybridizationの系を確立し、神経活性の指標であるc-FosのシグナルとV1Rグループに属するフェロモン受容体遺伝子5種のプローブを混合したものの呈示に対して、シグナルの両方が実際に重なって検出される細胞を、嗅上皮の嗅覚細胞において探索する。 ラットの警報フェロモンについては、収集効率の高いフェロモン捕集装置を開発し、大量のフェロモン物質を含む生物材料を回収し、これをもとに聴覚性驚愕反射を指標として生物検定を行ない、活性画分の絞り込みと警報フェロモン主要成分の同定を目指す。
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