研究課題/領域番号 |
21228006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
森 裕司 東京大学, 農学生命科学研究科, 教授 (40157871)
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研究分担者 |
武内 ゆかり 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (10240730)
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研究期間 (年度) |
2009-05-11 – 2014-03-31
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キーワード | 哺乳類プライマーフェロモン / 雄効果フェロモン / GnRHパルスジェネレーター / 警報フェロモン / 安寧フェロモン / リガンド分子同定 / フェロモン受容体 / 中枢神経回路 |
研究概要 |
反芻動物の雄効果フェロモンについては、これまでにフェロモンリガンド分子として最有力候補であることを見出した4-ethyl****(MW156)に加えて、4-ethyl****acidや6-ethyl****<註>にも弱い活性が保持されていることが分かった。これまでの成果を勘案すると、雄ヤギが特異的に産生するエチル基側鎖のある分子量150-200程度のアルデヒド、アルコール、ケトン、カルボン酸といった物質群が、雄効果フェロモン成分として重要であることが明らかとなった。また作用点が視床下部弓状核に存在するキスペプチン・GnRHニューロンの構造ユニットであることを明らかにした。雄効果フェロモンの受容体については、c-FosとV1Rのdouble in situ hybridizationの系を確立した。神経活性の指標であるc-FosのシグナルとV1Rグループに属するフェロモン受容体遺伝子5種のプローブを混合したものに対するシグナルの両方が実際に重なって検出される細胞を嗅上皮の嗅覚細胞に見出すことができた。 ラットの警報フェロモンについては、収集効率の高いフェロモン捕集装置を開発し、大量のフェロモン物質を分析した結果、hexa***(MW100)と4‐methyl****(MW100)<註>からなるフェロモン候補物質の組み合わせにフェロモン活性の存在が推測された。これらの物質を化学合成し、生理学的濃度にまで希釈したその混合液について聴覚性驚愕反射を指標として生物検定を行った結果、活性が確認され、警報フェロモンの主要成分と同定された。さらに、この人工フェロモンは、嗅覚受容した個体の防御行動や危険評価行動といった不安関連行動を増加させ、また反応には鋤鼻器の存在が必要であることなど、天然フェロモンと極めて類似した性状を持つことが明らかになった。 <註:物質名は未発表のため伏せる>
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究では、二種類のプライマーフェロモン分子 (反芻動物の雄効果フェロモンとげっ歯類の情動系フェロモン)の単離精製・構造決定と合成を端緒として、フェロモンの産生・分泌機構、フェロモンの受容機構、フェロモンによる脳機能の修飾メカニズムについて解析を行い、哺乳類におけるフェロモンを介した化学的情報通信システムの全容解明と応用技術開発の基盤形成を目的に掲げた。雌の生殖内分泌系を強く刺激して雄効果をもたらす反芻動物の雄効果フェロモンについては、フェロモン効果をもたらす活性画分の絞り込みに成功した。その画分に含まれる18分子を構造決定し合成することで、人工のフェロモンカクテルを再構築し活性を確認するとともに、主要な成分および他のフェロモン候補物質を同定した。また嗅上皮に発現するフェロモン受容体V1Rがフェロモン暴露に反応することをつきとめ、作用点が視床下部弓状核に存在するキスペプチン・GnRHニューロンの構造ユニットであることを明らかにするなど、雄効果フェロモンの本体と受容機構に関する研究は順調に進展している。一方、本研究のもうひとつの主要なテーマである情動系フェロモンについては、これまでにラットの警報フェロモンの候補物質の単離精製に成功したが、これは2分子のカクテルとして効果を発揮するといった哺乳類では未知の特徴が示され、その神経回路の概要を明らかにした。警報フェロモンとは逆の情動効果をもつ安寧フェロモンについても、フェロモン受容から作用発現機構をつなぐ神経回路の一端を解明するなど、こちらも研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は今年度が最終年度であり、以下の推進方策を考えている。 ヤギのフェロモン受容体V1Rを培養細胞株で機能発現する系を確立して、雄効果フェロモンのリガンド分子である4-ethyl*****の受容体を同定する。まずヤギV1RをHEK293細胞で機能発現させ、カルシウムイメージング法を用いてリガンド分子の効果をスクリーニングする検定系を確立し、この系を用いてヤギV1R候補24種それぞれを発現させ、4-ethl*****に反応する細胞を探索することで受容体を同定する。 また雄効果フェロモンを反芻家畜の繁殖機能改善へ応用することを念頭に、今後のフィールド研究発展に向けての基盤となる実験を行う。すなわち合成4-ethyl*****をマイクロカプセルに封入した上で樹脂に練り込み、合成フェロモンを一定の速度でゆっくりと放出するフェロモン徐放式首輪を設計製作し、あらかじめ生殖内分泌機能を抑制しておいた雌ヤギに装着して、卵巣機能に与える影響を調べる。 情動系フェロモンについては、警報フェロモンのリガンド分子と特異的に結合するフェロモン受容体の同定及び中枢神経回路に関する研究を進め、安寧フェロモンに関してはフェロモン効果に個体間の親密度がどう影響するかという点に着目して神経行動学的検討を進める。
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