本研究では、Ca^<2+>シグナルの未知機能解明とシグナル分子可視化解析を介して中枢神経ネットワーク機能研究を格段に進めることを目的とし、下記課題について研究を進めた。全課題で研究が進展したが、以下に主要な点について述べる。 1.Ca^<2+>シグナルの新機能探索 アストロサイトにおける自発的Ca^<2+>オシレーションは、アストロサイトのN-カドヘリンの発現を調節して、神経の突起伸長を制御する。Ca^<2+>オシレーションがN-カドヘリン発現を制御する分子機構解析を進め、翻訳調節因子を同定した。また、アストロサイト特異的にN-カドヘリンを欠失するマウスを作成した。これにより、神経・グリア相互作用におけるN-カドヘリンの意義を生体内で解析する重要なツールが得られた。 2.グルタミン酸動態解析 グルタミン酸プローブ(EOS)を用いて、小脳スライス標本において平行線維刺激によるグルタミン酸スピルオーバーの可視化測定を行うことに成功した。どのような刺激条件によりスピルオーバーが生じ、どの程度の細胞外濃度になり、どこまで広がるのかを明らかにした。さらに、グルタミン酸可視化法をラット生体脳内測定へと拡張し、感覚入力によりグルタミン酸スピルオーバーが起きることも証明した。この成果について論文を発表した。 3.NOシグナル・Ca^<2+>シグナル連関機構 小脳皮質では平行線維電気刺激により、濃度数μMに達するNOシグナルが形成され、プルキンエ細胞のグルタミン酸感受性を高めてシナプス長期増強を誘発する。NOから長期増強に至る過程を追及したところ、プルキンエ細胞内のリアノジン受容体を介するCa^<2+>放出機構の関与を示唆する成果を得ている。さらに、NOシグナルによるリアノジン受容体活性化機構について解析を進め、S-ニトロソ化の関与を示す結果を得た。
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