T細胞は免疫反応を担うと共に免疫応答の調節を行う重要な細胞群であり、異なる機能を持つ幾つかの細胞亜群から構成される。T細胞の機能異常や分化バランスの異常によって種々の免疫疾患が誘発されることから、これら免疫疾患の病態を理解し、医療に応用可能なT細胞分化制御技術を開発することは医学・免疫学の重要な課題である。本研究課題では、異なるT細胞亜群の分化を制御する転写因子ネットワークの解明を目的に研究を遂行する。本年度は免疫応答を負に制御し、その分化異常が自己免疫疾患の発症と深く関与する制御性T細胞(Treg)の分化に着目して研究を行った。制御性T細胞特異的にRunx転写因子の機能不全を誘導したマウスを作製した所、Treg細胞は存在するが自己免疫疾患が自然発症したことから、Runx転写因子の機能がTreg細胞の免疫抑制機能の獲得に重要であることが明らかとなった。次にその分子機構を解析し、Treg細胞の分化に必須のFoxp3遺伝子内の複数の発現制御領域にRunx転写因子複合体が結合することで、Foxp3の発現を正に制御していることを明らかにした。新たな自己免疫疾患モデルマウスを確立し、Treg細胞分化を制御する転写因子ネットワークの一端を解明した研究成果は、自己免疫疾患発症機序の解明に繋がるものであり、国際科学雑誌『Immunity』及び『Journal of Experimental Medicine』に発表した。その他、胸腺内でのNKT細胞分化にRunx1転写因子を介した遺伝子発現抑制機構が関与すること、Runx転写因子複合体の機能は正常なγδT細胞分化に必須であることを明らかにした。
|