1. 引き続きWntシグナルがマウス多能性幹細胞の心筋細胞への分化を制御する分子機構について、次世代遺伝子解析装置を用いた網羅的解析を行った。その結果、Wntシグナルが活性化することで核内へと移行したb-cateninタンパクが、中胚葉分化に重要な役割を果たす転写因子および多能性維持に重要な役割を果たす転写因子と結合し、心筋細胞を特徴づける遺伝子領域のDNAメチル化やヒストンアセチル化の変化を引き起こすことで心筋細胞分化を促進していることが明らかになった。 2. Wntシグナルを活性化する低分子およびWntシグナルを抑制する低分子を組み合わせて時期特異的に作用させることで、ヒトiPS細胞を安定して廉価に心筋細胞へと分化誘導する技術の開発を行った。エピゲノムを変化させる低分子がマウスES細胞の心筋細胞分化を促進することから、ヒトiPS細胞への応用を図ったが、細胞毒性が強く、心筋細胞分化促進作用を確認することはできなかった。 3. 心臓に存在する心筋細胞や血管内皮細胞特異的に誘導性にWntシグナルを活性化させる遺伝子改変マウスを作成したところ、進行性の心機能低下と心不全による死亡を認めたことから、心臓におけるWntシグナルの活性化が心臓の機能に悪い影響を及ぼしている可能性が示唆された。
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