研究概要 |
1.Rac1は食塩感受性の規定因子である Dah1食塩感受性ラットでは食塩により高血圧・腎障害が惹起され、Dah1食塩抵抗性ラットでは血圧上昇や腎障害が生じないが、そのメカニズムは解明されていなかった。申請者らは、Dah1食塩感受性ラットでは食塩により腎臓のRac1活性が上昇し、一方Dah1食塩抵抗性ラットにおいては逆に抑制されることを見出した。Dah1食塩感受性ラットにおいて食塩によって活性化したRac1はアルドステロン非依存性にMR活性化を引き起こし、その結果高血圧・腎障害が惹起され、Rac阻害薬によりMR活性化や食塩による血圧上昇・腎障害は軽減した。また、ラットにアルドステロンと食塩を投与すると腎障害が生じるが、食塩により糸球体でのRac1活性が亢進し、足細胞障害、アルブミン尿が惹起され、Rac阻害薬によりこれらは軽減した。RhoGDIα欠損マウスにおいても、食塩によりRac1活性は著しく亢進し、著明な食塩感受性高血圧・腎障害を呈した。すなわち、食塩に対するRac1の反応性が食塩感受性を規定することが明らかとなった(Shibata,Fujitaら論文投稿中)。 2.酸化ストレスや機械的刺激による心拡張機能障害におけるRac1-MR系の関与の検討と、心筋特異的遺伝子改変マウスを用いた実証 申請者らは、buthionine sulfoximine(BSO)と食塩による酸化ストレス過剰がRac1,MR活性化を介して心拡張機能障害を惹起すること、Rac阻害薬やMR拮抗薬が有用であること、さらにMR活性化の下流としてNHE-1の活性化が重要で、NHE-1阻害薬により拡張機能障害が改善することを見出した。一方、圧負荷心不全マウスやストレッチ刺激を加えた培養心筋細胞においてもRac1やMRの活性化が生じていた。現在、心拡張機能障害の分子カスケードにおけるRac1,MRの位置づけを実証するために、心筋細胞特異的Rac1 KOマウスならびに活性型Rac1過剰発現マウスの作製を進めている。なお、作製した心筋特異的Rac1 KOマウスホモは胎生致死であったため、ヘテロマウスでの検討を計画している。
|