研究課題/領域番号 |
21229012
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
藤田 敏郎 東京大学, 医学部附属病院, 教授 (10114125)
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キーワード | 食塩 / 生活習慣病 / アルドステロン / 鉱質コルチコイド受容体 / Racl / 心腎連関 / 酸化ストレス / 腎障害 |
研究概要 |
(1)『Rac1によるMR活性化』がある種の食塩感受性高血圧の決定要因であることを解明 Dahl-Sラットの食塩感受性高血圧の原因に『Rac1によるMR活性化』が関与することを昨年見出したが、その結果を論文報告した(Shibata S, Fujita T et al.J Clin Invest 2011)。 (2)心障害におけるRac1-MR系の役割~心筋細胞特異的遺伝子改変マウスを用いた検討 心筋細胞特異的Rac1 KOマウスの作出に成功し、心筋における『Rac1-MR系』の検証を進めている。心筋細胞特異的Rac1 KOホモマウスは胎生致死であったが、ヘテロマウスでは大動脈縮窄(TAC)による圧負荷心不全や酸化ストレスによる心障害が軽減すること、その過程にRac1-MR系が関与することが示された。心筋特異的活性型Rac1過剰発現マウスは比較的Tg発現レベルの高いラインが得られており、今後繁殖の上、心機能評価と機序解析を進めていく。培養心筋細胞の系においても、細胞内酸化ストレスがMR活性を修飾すること、その機序にRac1が関与することが示された。 (3)『Rac1によるMR活性化』がAngII・食塩過剰状態での腎障害にも中心的役割を果たすことを解明 AngIIを過剰産生するつくば高血圧マウスの腎障害は厳しい減塩下では見られず、高食塩で著しく増悪した。この食塩感受性腎障害は副腎摘およびアルドステロン補充で寛解・増悪したことから、腎のAngII/AT1受容体シグナルではなくアルドステロン/MRシグナルが関与するものと考えられた。食塩負荷つくばマウスでは血中アルドステロン濃度は低いものの、腎のRac1活性、MRシグナルが増強し、Rac阻害薬やMR拮抗薬にてRac1-MR系を抑制すると腎障害は改善した。一方、これらに影響しないヒドララジンでは改善しなかった。このように、AngII・食塩による腎障害ではRac1-MR系が中心的に働くことが示された。 (4)『MR拮抗薬の腎保護効果』を検証する臨床試験 MR拮抗薬の臓器保護効果を、高血圧を有する患者のアルブミン尿に対する効果で調べる臨床研究EVALUATE試験は患者リクルートが目標数に達し、順調に進行している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
『Rac1によるMR活性化』が、より一般的な病態としてDah1ラットの食塩による血圧上昇、アンジオテンシンII過剰を呈するつくば高血圧マウスの食塩感受性腎障害、酸化ストレスや圧負荷による心障害、肥満糖尿病KK-Ayマウスの腎障害など、多岐にわたる病態の発症・進展過程に密接に関係し、Rac阻害薬が臓器保護に有用であることが示された。EVALUATE臨床試験は順調に進行しており、心筋細胞特異的Rac1 KOマウス、Rac1 Tgマウスも作出に成功し、Rac1-MRカスケードの解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
H24年度より研究代表者の所属部局が変更となったが、新体制で継続研究に取り組むとともに、脂肪由来アルドステロン分泌刺激因子の同定、MR過剰活性化が臓器障害を引き起こす詳細なメカニズムの解明、臓器Rac1活性、臓器Rac1、MR活性の診断・治療法の開発についてはまだ報告ができる状態に至っておらず、後半の2年間で精力的に取り組む。さらに追加研究計画としてMRのエピジェネティック制御についても解析を進めていきたい。
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