研究課題/領域番号 |
21229014
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
天谷 雅行 慶應義塾大学, 医学部, 教授 (90212563)
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研究分担者 |
久保 亮治 慶應義塾大学, 医学部, 特任講師 (70335256)
永尾 圭介 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (40286521)
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キーワード | 免疫寛容 / 自己免疫 / モデルマウス / 天疱瘡 / 樹状細胞 |
研究概要 |
本研究では、自己免疫性皮膚疾患である尋常性天疱瘡(PV)の標的抗原、デスモグレイン3(Dsg3)に対する中枢性および末梢性免疫寛容機構獲得機序を解析し、自己反応性T細胞の関与する病態を明らかにするとともに、免疫寛容に関わる皮膚樹状細胞の役割、および胸腺に代わる免疫制御臓器としての皮膚の新たな機能を解明することを目的としている。平成23年度では、特に樹状細胞に関して進展が認められた。Dsg3H TCRトランスジェニックマウスより分離されたDsg3H T細胞は、Th2型にシフトして抗Dsg3 IgG抗体産生を誘導するのみならず(PVモデルマウス)、Th1型にシフトするとDsg3H T細胞が皮膚、粘膜への直接浸潤し、Interface Dermatitisを誘導する(EADマウス)。PVモデルマウス、およびEADマウスにおける表皮ランゲルハンス細胞(LC)の役割を検討するため、LCを恒久的に欠損するLangerin-DTA(diphtheria toxinA)マウスを用いた。このマウスをEADにおけるレシピエント(Rag2-/-背景)とし、Dsg3H CD4^+T細胞を移入したところ、野生型と比較して、EADの表現型が顕著に悪化した。また、PVモデルマウスにおいてLCを欠損させたると、LCによるDsg3の抗原提示が障害される結果、抗Dsg3自己抗体の産生が抑制されることが予想されたが、逆に抗体産生が増強した。PVとEADの両モデルにおいてLCが重要な役割を果たしていることが示され、現在、詳細な分子メカニズムを解析している。また、Th1ランゲルハンス細胞(LC)樹状突起先端部からのみ捕捉された黄色ブドウ球菌毒素(ETA)に対して中和抗体が産生されることを示し、LCはTJの外側に存在する皮膚表面の細菌由来抗原をサンプリングし、感染が生じる前に先制防御的な免疫反応を惹起する重要な役割を担っていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究で当初予定されていたDsg3に対するエピトープ、親和性の異なる3種のTCR Tgマウスは予定通り作成することができた。また、樹状細胞の関与においても、ランゲルハンス細胞、真皮樹状細胞など樹状細胞サブセットを選択的に消去するマウスを既に樹立しており、天疱瘡モデルマウス、EADマウスにおける樹状細胞の役割を現在詳細に解析できている。さらに、当初予定していなかったいくつかの新しい展開も見せている。その大きな理由のひとつは、人工抗原ではなく、実際の自己免疫疾患の抗原を用いていることによると思われる。特に、抗体産生を誘導できるDsg3反応性T細胞クローンから研究が開始されているが、同一のTCRを持ったT細胞がTh1型に分化することによりInterface Dermatitisを誘導することが示された。皮膚科領域においてT細胞浸潤を示す多数の病態未解明の疾患が存在し、それらの病態解明にむけて新しい展開が期待されている。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの我々の研究から病原性を有するDsg3反応性T細胞は胸腺内のみならず胸腺後の末梢性免疫寛容機序によっても除去される可能性が示唆されている。今後は末梢性免疫寛容を担う担当細胞および分子を追求する予定である。具体的には,分子としてはPD-1/PD-L1,Aire、細胞としてはランゲルハンス細胞、胸腺外Aire^+細胞等の関与を検討する。また、Dsg3反応性T細胞により誘導される病態に関して、Th1型へのシフトで誘導されるInterface Dermatitisの詳細な病態を分子レベルで解析するのみならず、Th17型へシフトさせた際にどのような病態が誘導されるのか,詳細に検討する。 本研究により、自己反応性T細胞、樹状細胞の解析を通して、皮膚という臓器の場でおこる免疫現象が、より包括的に見えてぐるようになってきている。皮膚は、種々の外来抗原と出会う抗原感作の場であり、そして、自己反応性T細胞に対して免疫寛容を実施する場でもある可能性が示唆されてきた。今後は、免疫臓器としての皮膚の全貌が明らかにすべく、研究を推進する予定である。
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