研究概要 |
べき則の性質を有するISPルータレベルトポロジにおけるエンドホスト間フロー制御機構がもたらすトラヒックダイナミクスの評価に取り組んだ。従来研究では、エンドホスト間のフロー制御がインターネットトラヒックにおける統計的性質を生み出す要因になっていることが示されている。しかしながら,これらの研究では小規模で単純なトポロジを対象としている。本年度は、BAモデルにより生成したトポロジおよびISPルータレベルトポロジがパケット転送遅延に与える影響を評価し、さらにトポロジが持つ構造の違いに着目することで、トポロジが持つ構造とフロー制御の相互作用がパケット転送遅延分布や各リンクの待ち行列長の変動の規模に与える影響を評価した。計算機シミュレーションの結果、ISPトポロジでは、ネットワーク負荷が低い場合は待ち行列長が大きく変動するリンクが全体の0.8%程度である一方、ネットワーク負荷が高い場合はボトルネックリンクの待ち行列長の変動は小さくなるにもかかわらず,全体の約10%のリンクで待ち行列長が大きく変動することを明らかにした。さらに、トポロジの構造分析の結果、ISPトポロジにおいてはボトルネックリンクから支流のリンクへと待ち行列長の変動が伝播するトポロジ構造を有することを示し、ISPトポロジのモジュール構造が待ち行列長の変動を抑制することを示した。また、モジュール性の異なる複数のトポロジを対象に評価した結果、モジュール性の高い構造がリンクのフロー量変動を抑えること、および、ネットワークスループットとフロー量変動の抑制の両立を目指した結果、フロー数分布の一部にべき則の性質が観察されることが明らかとなった。
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