視覚情報には、被写体の顔に代表されるプライバシー・センシティブな情報PSI (Privacy-Sensitive Information)が含まれている。このPSIは、画像・映像情報の流通、共有において、プライバシー侵害の危険性をはらんでいる。本研究の目的は、モバイルカメラを通して得られる視覚情報からPSIを分離し、PSIを保護する画像処理法を確立することである。本年度に実施した研究内容を以下にまとめる。 1. PSIとその保護に関する基礎的考察 : 誰が、いつ、どのような状況でどんな情報(PSI)を見ればプライバシーの侵害となりうるについて公共空間という場を設定して検討した。次に、PSIの隠蔽によるプライバシー保護可能性を調べた。PSIの隠蔽手法として視覚的抽象化を採用し、被写体の静止人物像に抽象化オペレータ(シルエット、ドット、モザイクなど)を施し、被験者と被写体の親密度など心理学的な観点からも結果を考察した。 2. 視覚情報からのPSIの分離・抽出 : 視覚情報中のPSIの候補となる領域として、人物像、顔など人間に関連する領域、人間に付随する物体の領域を取り上げ、有効なPSI分離抽出の画像処理手法を提案した。 ここでは、画像あるいは画像列から注目領域ROI(Region Of Interest)検出に基づく手法を具体化し、その特性を実験的に評価した。 3. PSIを保護する画像処理 : 画像・映像中のPSI領域候補が検出された後、その領域をカメラが移動しても追跡するアルゴリズムを考察した。さらに撮影者の動作と考えられるフォーカシング、カメラワーク、フレーミングの時間的推移を基に、撮影者の意図を推定する方法についての予備的検討を行った。
|