研究課題
本研究では、Akt経路による細胞成長の制御メカニズムを周波数応答解析と1細胞レベルの分布解析を行うことにより明らかにする。昨年度までに、我々はPC12細胞にEGFを様々な時間パターンで投与し、EGFRからAktを介して下流のS6まで伝わるシグナル伝達経路のダイナミクスとその特性を調べた結果、Akt経路が逐次一次反応で表現することができるローパスフィルタという信号処理特性を示すことを発見した。逐次一次反応はもっともシンプルな生化学反応であり、上記の特性はAkt経路に限らずシグナル伝達一般に認められる普遍的な性質であると考えられる。そこで、本年度は、逐次一時反応経路において、刺激や阻害剤に対する感受性解析を行った結果、刺激に対しては上流より下流のほうが感受性が高く、逆に阻害剤に対しては上流より下流のほうが感受性が低くなることを理論的に見出した。さらに、EGFやEGFR阻害剤などを用いてpEGFR、pAkt、pS6などのリン酸化をさまざまな細胞種において計測して、上流と下流の刺激や阻害剤に対する感受性の検証を行った。また、抗がん剤などの薬剤の濃度と、これに対する細胞の応答の強さとの関係は「感受性」と呼ばれ、薬剤の作用を知るうえで重要な指標として利用されている。しかし、この感受性がどのような仕組みにより調節されているかについてはこれまで不明だった。例えば、ある濃度の薬剤が標的分子を十分に阻害できても、細胞の応答を十分に阻害するためにはより高い濃度の薬剤が必要になる場合がある。さらに、分子の分解や不活性化などの負の制御機構が感受性変化を制御していることを見出した。この原理によって、薬剤により、標的分子を十分に阻害できても、最終的な応答は必ずしも十分に抑制できないことが明らかになった。この原理の発見は、薬剤応答の予測や創薬デザインなどに役立つことが期待される。
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Nature Communications
巻: 3 ページ: 743
Journal of Cell Science
巻: (in press)