研究概要 |
小脳は,姿勢や運動の制御に重要な役割を果たすことで知られる.小脳に形成不全があると歩行に異常をきたす.小脳の中心的な存在であるプルキンエ細胞は本来胎生期に小脳原基の外側(表面近く)に並ぶ.歩行障害にもとづいて見つかった「リーラー」というミュータントマウスの小脳では,プルキンエ細胞の正しい配置が果たされず,プルキンエ細胞は深いところに沈んだように留まる.リーラー変異の的として1995年に発見されたリーリン遺伝子は,細胞外で機能する糖タンパク質をコードするが,ヒトで欠損すると先天性の脳形成不全となることが知られており,その働きの理解はきわめて重要である. 小脳において,リーリンがプルキンエ細胞の配列を制御する,ということは分かっているが,具体的にその作用をどのようにして果たすのか,プルキンエ細胞がリーリンに反応してどのような振る舞いをするのか,依然分かっていない.そこで,本研究の大きな柱の一つとして,まずこの問題に対しての解析を行った. 散発的な標識による形態描写,特異的マーカーを用いての同定,そしてスライス培養によるライブ観察を組み合わせることで,幼若なプルキンエ細胞の移動の様子を初めて詳しく観察することに成功した.プルキンエ細胞は,これまで考えられていなかった様式の移動をしていること,移動の後ではなく途中から回路形成用の極性化を示しており,巧みに層を形成する様子が分かった.この成果は,海外の学会を含めて,ポスターおよび口頭の発表を行ったのに加えて,論文としてまとめ,現在査読中である. なお,本研究と関連性のあるリーリンについての共同研究によって論文の出版に至った.
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