研究概要 |
小脳は,姿勢や運動の制御に重要な役割を果たし,小脳に形成不全があると歩行に異常をきたす.リーリン遺伝子は,細胞外で機能する糖タンパク質をコードし,ヒトで欠損すると先天性の脳形成不全となることが知られており,その働きの理解はきわめて重要である.昨年度までに,誕生したプルキンエ細胞がどのように移動し,配置に至るのかに関して重点的に研究を進め成果を挙げたので,今年度は,プルキンエ細胞の誕生の局面について,解析を行ない,以下のような成果を挙げつつある. まず,プルキンエ細胞が産生される時期(マウスで胎生10日目から12日目)の小脳原基に存在する神経前駆細胞の細胞周期動態を調査し,細胞周期長が17時間程度である事を明らかにした.また,G1期,S期,G2期,M期の長さを推定する事もできた.また,前駆細胞が集団として示す分裂のモードについても明らかにする事ができた.具体的には,胎生10日目では仮に50個の前駆細胞が分裂して100個の娘細胞が誕生する場合にそのうちにプルキンエ細胞が30個ほど含まれるが,11日目には45個程度に,そして12日目には60個程度に,と徐々に割合が上昇する.集団としての非対称分裂の様態を初めて明らかにする上事ができた.さらに,非対称分裂の状況を上記のような「集団」レベルでの理解から,「個々の細胞」レベルでの理解に深める目的で,クローン解析にも着手した.具体的には,GFP遺伝子を組み込んだレトルウイルスを胎生10日目の小脳原基に注入し,きわめて散発的・低密度に前駆細胞を標識し,その前駆細胞の子孫細胞を様々な待ち時間後に解析し,どういう分裂が起きたために各クローンが生じたかを判定した.現在,クローン解析の規模を増やすとともに,ライブ観察で分裂の様子をとらえるべく準備中である. なお,2011年6月11-12日には,研究室公開を行ない、一般の方々に研究の紹介を行なった.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画全体の主要な2つのパートは,プルキヒエ細胞の移動・配置の局面と,プルキンエ細胞の産生の局面に分けられる.このうち,「移動・配置」について,これまでに成果をあげ論文の出版,学会発表,新聞掲載などの発表に至っている.後者.「産生」の局面について,前駆細胞のふるまいを調査する研究を現在推進中である.
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今後の研究の推進方策 |
プルキンエ細胞の産生の機構に関して,前駆細胞の動態,細胞系譜の問題を追求する。具体的には,プルキンエ細胞の前駆細胞の細胞周期進行の状況についてBrdUを用いた標識法を分化マーカーと組み合わせることを通じて把握する.また,レトルウイルスをもちいたクローン解析もおこない,細胞系譜を明らかにする.さらにスライス培養を用いて,非対称分裂の様態について明らかにする.これらはいずれも開始しており,さらなるデータ取得を続ける予定である.
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