成体脳のニューロンは一般に再生しないが、例外として側脳室の上衣下層(LV-SVZ)および海馬歯状回の顆粒細胞下層(DG-SGZ)の2か所でニューロン新生が起こる。これらのニューロンは、外部刺激に対する弁別、記憶、学習に関わることが示唆されているが、その重要性・意義についてはよくわかっていなかった。この研究の遅れは、成体脳のニューロン新生を標識したり止めたりする有効な手段が無かったためである。最近、我々は、成体脳のニューロン新生を効率良く標識したり抑制したりできる遺伝子改変マウスを開発し、上記のような問題点を克服することに成功した。本年は、Nestin-CreERT2マウスとNSE-DTAマウスを掛け合わしたマウスを用いた。このマウスでは、タモキシフェン投与後にニューロン新生を特異的に、しかも効率良く阻害できる。このマウスを用いて、鋤鼻器からのフェロモン刺激情報の処理に関わることが知られている副嗅球の解析を行った。副嗅球の顆粒細胞は側脳室の上衣下層から新生されることが知られているが、その意義は不明であった。成体副嗅球におけるニューロン新生の程度を解析したところ、嗅球と同様に顆粒細胞の多くが新生されることがわかった。さらに、このニューロン新生を阻害したところ、フェロモン情報の認識に障害が起こることが明らかになった。また、妊娠の持続やホルモンバランスの異常も示唆された。副嗅球におけるニューロン新生の重要性が示唆されたので、今後、これらの異常について詳細な解析を行う必要がある。
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