研究概要 |
我々は腕の交差に伴う時間順序判断の逆転現象(Yamamoto & Kitazawa, Nat Neurosci,2001a,b)をてがかりとして、2つの信号の時間順序は、信号の空間的な「位置」の情報と「動き」の情報から再構成されるという「動き投影仮説」を提唱した。本研究では新たに発見されたサッケード眼球運動直前の時間順序判断の逆転現象(MorroneらNat Neurosci,2005)を実験系に選び、ヒトとサルを使った実験により「動き投影仮説」の検証に取り組んでいる。1.心理物理実験サッケード直前の時間順序判断の逆転は6度離れた視覚刺激では生じず、24度離れた刺激のみで生じることが明らかになった。サッケードの影響を受けるのは、6度よりも大きい受容野を持つ領域、すなわちMT野ではなくMST野意向であることを示唆する結果である。2.非侵襲脳機能計測実験腕交差時の脳磁図計測データの解析を行った。従来発見していたα帯域の位相と回答の相関に加え、左右の半球間のコヒーレンスとの相関を示唆するデータが得られた。3.サルのニューロン活動記録実験MT野やMST野など動く視覚刺激に応答する領域のニューロンには、好んで反応する視覚刺激の方向(適方向)を持つものが多い。我々の作業仮説が正しいとすれば、サッケード直前に「動き」の領域のニューロンの適方向が半数以上のニューロンで逆転するはずである。昨年度までに開発した動き逆相関法を使って、2頭のサルのMT野、MST野とその周辺領域から神経活動計測を行った。その結果、サッケード開始前60-100msの時間帯に適方向が逆転するニューロンがMST野やV4t野に存在することを見出した。我々の仮説を指示する結果である。しかし、細胞群全体としては、サッケードの開始直前に相関が0に向かい、適方向反転以外にも動きの情報をキャンセルするためのメカニズムが存在することが示唆された。
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