H23年までに、新皮質の同一層にあっても結合特性が異なる興奮性サブネットワークが存在し皮質下投射様式と関係していること、これらを担う錐体細胞サブタイプごとに樹状突起分枝様式が違うことから、これらが視床との入出力関係においても分化している可能性を明らかにした。今年度は、これらの知見を発展させるため主に以下の二つの事を進めた。(I) 興奮性サブネットワークを制御する抑制性細胞のサブタイプ分類について私たち独自のものと他の研究室のものとの異同を国際共同研究で解析した。今後、抑制性細胞による興奮性サブネットワーク制御を調べるための基礎となる、マルティノティ細胞などの基本的サブタイプ分けの妥当性を確立した。(II) 多様な皮質ニューロンと視床核との関係を明らかにするために、皮質・視床の相互作用で起きるUp・Down振動、スピンドル振動での発火様式を調べている。麻酔下動物で局所電場電位から同定した振動とニューロン発火の関係を視床核ごとに解析し、さらに前頭皮質錐体細胞とも比較検討している。これまでに、Upやスピンドル振動への関与が皮質投射様式が異なる視床核で異なることを見つけた。視床では機能が大きく異なると考えられる3つの核から記録を行った:(a) 基底核から入力を受け、前頭皮質1層へ多く投射するVA/VM核、(b) 小脳から入力を受け、主に2/3層へ投射するVL核、(c) 視床内投射するGABA作働性の網様核。その結果、以下のことが分かった。(1)視床細胞は、視床へ投射する錐体細胞よりもUp内時期選択的に発火する。(2)特に、VA/VM核や網様核にはUp開始付近で選択的に発火するものがある。視床細胞の中にUp開始に先行して発火するものがあることから、大脳皮質Up状態を起動する機構は皮質局所回路だけでなく、視床回路にも存在するかもしれない。
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