本研究は、動く視覚刺激の検出と統合に関わる神経機構の解明ため、視覚情報処理によって得られた運動情報がダイレクトな形で現れる視覚的眼球運動の開始時の特性に注目し、サルを対象としたニューロン活動記録実験を中核に、ヒトやマウスを対象とした実験を組み合わせ、視覚システムの階層構造の中で視覚的運動情報が抽出、統合、出力されていく情報処理プロセスを明らかにすることを目指している。 本年度の主な成果をまとめると、 (1)視標を固視する訓練を施したサルを用い、大脳高次視覚野MT/MST野からニューロン活動を記録した。視覚刺激の動きに反応するニューロンを分離し、様々な時間、空間周波数の正弦波縞を呈示し動かして、反応特性を調べた。MT野MST野から記録されたニューロンは、ともに20Hz近傍の時間周波数にチューンした特性を示した。一方、空間周波数については様々な特性を持つニューロンが記録できた。特にMTニューロンでは空間周波数チューニング特性と、受容野の偏心度に相関がみられた。 (2)wild-typeのマウス間での視運動性反応の特性を比較するため、C57/BL6マウスと129/SvEvマウスについて、様々な時間、空間周波数の正弦波縞を呈示し動かして反応特性を調べた。これまでの実験で視運動性反応には一過性の開始相と、それに続く維持相があり、異なる神経機構が関与する可能性が考えられてきたが、このいずれの相の特性にも両系統のマウス間では差がないことが明らかになった。
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