研究課題/領域番号 |
21240037
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
河野 憲二 京都大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (40134530)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 視覚 / 脳 / 神経 / 眼球運動 / 霊長類 |
研究概要 |
本研究は、動く視覚刺激の検出と統合に関わる神経機構の解明ため、視覚情報処理によって得られた運動情報がダイレクトな形で現れる視覚的眼球運動の開始時の特性に注目し、サルを対象としたニューロン活動記録実験を中核に、ヒトやマウスを対象とした実験を組み合わせ、視覚システムの階層構造の中で視覚的運動情報が抽出、統合、出力されていく情報処理プロセスを明らかにすることを目指している。 本年度の主な成果をまとめると、 1. 視標を固視する訓練を施したサルを用い、大脳高次視覚野MT/MST野からニューロン活動を記録した。視覚刺激の動きに反応するニューロンを分離し、様々な時間、空間周波数の正弦波縞及びランダムドット像の動きに対する反応特性を調べた。平成23年度までの実験で明らかになったニューロンの受容野と空間周波数特性の関係を2頭のサルで確認した。さらに、2種類の空間周波数の正弦波縞を組み合わせた視覚刺激を作成し、一方の正弦波縞のコントラストを大きく、他方の正弦波縞と小さくした刺激に対する反応を記録したところ、眼球運動反応と密接に関連したニューロン活動を記録することが出来た。 2. 網膜上でON型双極細胞への情報伝達に障害のあるTRPM1ノックアウトマウス、mGluR6ノックアウトマウスの視運動性反応の特性を調べたところ、視運動性反応の開始部の利得が低下していること、視運動性反応の維持部、つまり視運動性眼振に障害が起こることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、動く視覚刺激の検出と統合に関わる神経機構の解明ため、視覚情報処理によって得られた運動情報がダイレクトな形で現れる視覚的眼球運動の開始時の特性に注目し、サルを対象としたニューロン活動記録実験を中核に、ヒトやマウスを対象とした実験を組み合わせ、視覚システムの階層構造の中で視覚的運動情報が抽出、統合、出力されていく情報処理プロセスを明らかにすることを目指している。 ヒトの行動学的実験により明らかになった、動く視覚刺激の検出と統合の性質がサルでも確認され、さらに、大脳高次視覚野MT/MST野からニューロン活動を記録することにより、この動く視覚刺激の検出と統合の性質が大脳高次視覚野のニューロン活動として表現されていることが明らかになった。また、大脳高次視覚野の発達していないマウスでは、同様の視覚情報処理が網膜で行われていて、その処理にはON型とON-OFF型の両方の経路が関与していることが示唆される結果を得ている。今後サルのMT/MST野のニューロン活動の性質とマウスの網膜神経回路での視覚情報処理を調べることにより動く視覚刺激の検出と統合に関わる神経機構を明らかにする道筋が見えてきている。
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今後の研究の推進方策 |
動く視覚刺激の検出と統合に関わる神経機構の解明にむけて、今後の研究方針としては、 1. 視標を固視する訓練を施したサルを用い、MT/MST野からニューロン活動を記録し、CRTモニター上に呈示した視覚刺激を動かし、ニューロンの反応特性を調べる実験を継続する。まず、ランダムドット像を上下左右斜めの8方向に動かし、ニューロンの方向選択性を調べる。平成24年度までの研究でニューロンの受容野と空間周波数特性の関係、コントラストの大きい正弦波縞と小さい正弦波縞を組み合わせた刺激に対する反応が明らかになったので、今後、サッケード運動の前後で視覚刺激を呈示する位置を変化させ、視覚的運動情報の統合が網膜座標系で起こるか、外部空間座標系で起こるかを調べ、ニューロンレベルでの動く視覚刺激の統合機序を明らかにする。 2. 上記サッケード運動の前後で視覚刺激を呈示する位置を変化させ、視覚的運動情報の統合が網膜座標系で起こるか、外部空間座標系で起こるかを調べる実験結果については、ヒトの行動実験で視覚的眼球運動を観察することにより確認する。 3. これまでの研究で、TRPM1ノックアウトマウス、mGluR6ノックアウトマウスの視運動性反応の特性が明らかになったので。今年度は、視細胞と双極細胞をつなぐリボンシナプスの細胞外マトリックスタンパク質であるPikachurinのノックアウトマウスの視運動性反応を調べる。この結果から網膜視細胞から双極細胞への情報伝達がマウスの視運動性反応にどのように関わっているのかを明らかにする。
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