研究概要 |
「病的低酸素」に関連する疾患には、脳梗塞や心筋梗塞,閉塞性動脈硬化症といった虚血性疾患が代表的であるが、近年、腫瘍内の低酸素環境が、治療不良、再発、悪性化に関与していることが分かってきた。つまり、「病的低酸素」は、日本の三大死因である「脳血管障害、心疾患、がん」の重要なシグナルであり,これをいち早く捉え、評価することは,早期診・早期治療という観点からいっても非常に重要である。本研究は、低酸素に応答して起こる生理的変化を分子レベルで捉えるバイオセンサー型PETプローブを開発し、上記三大疾患に適応可能な診断薬の創出を目的としている。がんの低酸素領域を診断するイメージングプローブはいくつか報告されているが、いずれも細胞内還元酵素を利用した化学反応に基づくもので、生理的低酸素を観察するためのバイオセンサー型PETプローブは未だ報告が無い。我々は、低酸素の生理的変化に応答して、低酸素細胞内に特異的に安定化する融合たんぱく質PTD-ODD-Xを構築し、抗がん剤や虚血性疾患の予後を改善するための治療薬の開発を行ってきたが、Xに付加する機能にイメージング機能をもたせることで、バイオセンサー型イメージングプローブの開発をめざしている。21年度は、非放射性フッ素およびヨウ素を用いてPTD-ODD融合たんぱく質のPETプローブ化の効率的合成条件の検討を行った。PTD-ODDの各ドメインを直接標識すると機能が損なわれる事が予想されるため、まず標識化合物としてリガンドをデザインし、その後PTD-ODD部との連結を行なう標識行程を計画した。市販のN-Boc-2-aminoethanolを出発原料として、Williamsonエーテル合成によってBoc-Halo Tag Amineを合成し脱保護を行なって末端にアミノ基を有するHalo Tag Amineを得た。標識部分として非放射性のSFBまたはSIBを合成し、Halo Tag Amineへの導入に成功した。これらの結果は、PTD-ODD-Xを用いたPETプローブ開発が実現可能であることを示しており、予定通り研究を推進していけることが確認できた。
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