研究概要 |
名古屋大学大学院の中塚武教授に研究協力を仰ぎ,樹木年輪中のセルロースに含まれる酸素の安定同位体比から,木棺柱状試料の年代決定を行った。樹木年輪セルロースのδ^<18>O値は生育環境の湿度に応答し,樹種によらず比較的広い地域間で変動パターンが同調することが明らかになりつつある。まず年輪年代の確定したヒノキ材(飯田市畑ノ沢地区埋没樹幹)から得たセルロースのδ^<18>O値測定を行い,1年ずつの変動パターンを得た。次いで柳本大塚古墳出土木棺の柱状試料から得たセルロースのδ^<18>O値測定を行い,その変動パターンがヒノキ材と同調することを確認した上で年輪年代を確定させた。桜井茶臼山古墳出土木棺の柱状試料は年輪幅の変動パターンが柳本大塚古墳出土木棺の試料と同調していたことから,同じく年輪年代を確定させることができた。 昨年度日本列島と韓半島南部とで較正曲線の地域差が確認されたが,これが地域差であるか樹種(コウヤマキ,ノグルミ)の違いであるかを確認する必要がある。今年度,京都府の北白川追分町遺跡で出土したコナラ節の埋没樹幹の炭素14年代を測定したところ,前6~7世紀の較正曲線IntCalと良好な一致を見せた。 中国側山麓で得られた白頭山火砕流の埋没樹幹(チョウセンマツ)の炭素14年代測定では,想定されるBT-m噴火年代に基づいて較正曲線と比較した結果,やはりInt Calからの乖離が認められた。その傾向は較正曲線が平坦ないし右上がりになる,すなわち大気中の炭素14濃度が減少する時期に顕著であり,右下がり,すなわち大気中の炭素14濃度が増加に転じている時期はInt Calに沿ったものになった。これは日本産樹木や,厳密には韓半島南部の古村遺跡出土木柱にもみられる傾向である。較正曲線の微細構造を検討するためにも,酸素同位体による年輪年代法が有用と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
・引き続き年輪年代の確定した樹木年輪試料の確保に努める。その際はδ^<18>O値による年輪年代も利用する。 ・新たな試料を確保できなかった場合,10年前に測定されたものの当時は十分な精度でなかった樹木年輪試料(AD330~630)の再測定を高精度で行う。また,日本列島内における較正曲線の地域差を確認するために,1世紀台の樹木年輪試料を複数測定する。 ・これまでの成果を,7月に開催される放射性炭素国際会議で報告した上で集約する。
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